映画『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』中国の台頭と移民コミュニティ

目次

移民社会は国家より強し

同族の結びつきは国境よりもはるかに強い。

私の周囲にも、国境をまたいで交流を深めている人は大勢いる。親族は言うに及ばず、ビジネス、文化、娯楽、etc。

彼らの行動を見ていると、もはや国境など有って無いようなもの。もちろん、商取引にも、結婚にも、留学にも、厳然たる法の定めがあるのだけれど、同族意識においては、法はあくまでルールであって、感情まで隔てない。どの国に属し、どの階層に属そうが、同族は同族同士で結びつき、独自のコミュニティを作り出す。それが極端に排他的、かつ閉鎖的な形で現れるのが過激思想であって、どこの、どんな同族集団にも、少なからず「彼らだけの暗黙の了解」が存在するものだ。それは在外の日本人仲間も決して例外ではない。こっちが異邦人であるにもかかわらず、自己を基準に外国社会を眺め、外国人を品定めし、同族にだけ通じる共感の中で、自己の存在と居場所を実感する。

何故、かくも同族は群れるのか。

それはやはり精神的、社会的帰属なくして、人間的生活はあり得ないからだ。

そして、言語をはじめとする文化的背景にまさる結びつきはなく、最初に言語で繋がり、次いで、文化習慣を通して共感を得る。国境を引こうと、国ごとに異なる法律を定めようと、同族の共感と暗黙の了解はそれらを遙かに上回り、暗黒大陸だろうが、宇宙植民地だろうが、彼らは再び結びつき、独自のコミュニティを作り出すだろう。

各国が頭を悩ませる移民・難民問題の本質は、支援そのものではなく、『内なる外国』をいかに抑え込むかにある。

共存を謳っても、群れは数とともに力を増し、ついには母体となるものを食い破るものだ。

政治において『数』は理念や道義よりはるかに強い。

真の脅威は異なる価値観や文化習慣ではなく、『数』そのものである。

※2017年11月より、 TV放送版日本語吹替音声(安原義人&池田秀一)の ゴールデンコンビがブルーレイで復活しています。情報は記事後方にあり

マイケル・チミノの予見

初稿: 2014年

今ではほとんど話題に上ることもない、マイケル・チミノ監督と『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』ですが、21世紀に振り返ってみれば、じわじわと頭角を現し始めた中国の底力と、それに対する現地民(アメリカ人)の動揺を描いた、意義深い作品だったと思います。(1985年公開・劇場で鑑賞しました)

作品自体は、ベトナム戦争を描いたアカデミー受賞作『ディア・ハンター』ほど高名でもなく、傑作と呼ぶには、ちょっと尻すぼみな感が否めないのですが、なんといっても中国系俳優ジョン・ローンと希代の色男ミッキー・ロークの存在感を強く印象づけた出世作であり、この顔合わせを実現した制作側のセンスも卓越しています。(ちなみにジョン・ローンとミッキー・ロークの関係がどこか男同士の恋情を匂わせるところがポイント。それをずばり指摘していた映画評もありました)

関連記事 → 戦争とは歴史の無慈悲なロシアン・ルーレット 映画『ディアハンター』

私は「ディアハンター」でマイケル・チミノ監督を知り、当時、TVで繰り返し流れていた予告編のCMで、ヒロインを演じたアリアーヌ・コイズミさんの知的な美しさに心惹かれ、一人で映画館を訪れました。実はこれが人生で最初のおひとりさま体験でした。だから余計で思い出深いのです。(『猿の惑星、一枚』 おひとり様の映画列伝 ティム・バートン版のレビューにも書いてますが、私は映画・舞台・美術展などは絶対的に一人を好むタイプです)

ジョン・ローンも、ミッキー・ロークも、期待以上の熱演で、アリアーヌ・コイズミさんのファッションも素晴らしかったけど(特に黒いドレス)、やはり印象に残っているのは「チャイニーズ・マフィア」と呼ばれる新勢力の台頭と、当時から予見されていた『昇竜の如き中国』のパワーでしょう。

知っている人は知っている話ですが、1980年代にはいずれ中国が日本を凌駕すると一部で予見されていました。

21世紀は中国の時代である』と、当時の映画評にも書かれていたほどです。

国をあげての工業化や生活様式の向上に伴う大都市の大気汚染も、、それが日本に飛来することも、80年代からすでに指摘されていました。

もっとも、当時は日本もバブル経済の真っ只中で、世界に冠たるMADE IN JAPANの時代。

まさに飛ぶ鳥の勢いでしたから、このような指摘に真剣に耳を傾ける人も少数でしたが。

『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』も映画としては70点ぐらいの出来ですが、制作されたのが1985年という点を考えると、アメリカも勢いがあった時代に「昇竜の如く台頭する中国」に目を付けたマイケル・チミノ監督のセンスはさすがだと思います。

ただ、当時としては「早すぎた」。

世界中の人々が「中国の台頭」を実感するには、先を行きすぎたのです。

アメリカの中国移民も、まだまだアジアの貧しい田舎者というイメージでしたから。

そういう面ではアンラッキーな作品でもありますが、ジョン・ローンの瑞々しさや、当時、人気絶頂だったミッキー・ロークの男の色気を堪能するには上出来の作品。

ちょっとばかり香港アクション映画を意識したような作りも、今となっては微笑ましい限りです。

ブルース・リー亡き後、ジャッキー・チェンや若手アクション俳優が香港映画を盛り上げようと、必死に頑張ってましたからね。

そして、この作品の良い所は、中国人に限らず、『移民』というものを公平な視点で描いていることです。

中国人もチャイニーズマフィアも悪だ! と一方的に断罪するのではなく、やはり移民として虐げられてきた過去があり、同族同士、社会的にも経済的にも協力しなければ生き残れなかった側面を取り上げています。

一方、そうした協力は、移民同士の便宜→貸借関係→口利き→賄賂→しのぎ→縄張り争い→暴力に発展することもあります。

その点では、フランシス・コッポラの三部作『ゴッドファーザー』に描かれているイタリア系移民とシシリー・マフィアも同様ですね。

特にPart2では、貧しい労働者に過ぎなかったドン・コルレオーネが、同じイタリア系移民の隣人を助けるうちに、『コミュニティの有力者』として周囲の信頼を得、やがてマフィアを組織する生き様が描かれていますし、後を継いだ息子のマイケルが、アメリカの上院議員に「お前ら、イタ公を見ると吐き気がする。上等なスーツに身を包み、さも『アメリカ人でござい』という顔をしているが、中身はカスだ、ただのイタ公だ」と罵られるシーンもあります。

それと同じく、中国人移民も、移民同士で助け合い、便宜を図るうち、独自のコミュニティで力を増していきます。

でも、現地人から見れば、移民コミュニティは得体の知れない群集であり、譲歩も協力もしない、閉鎖的な集団です。

その結果、ますます齟齬をきたし、孤立化したり、地下に潜ったりします。

こうした傾向は中国系移民に限らず、世界中、どこの移民も同じです。

今は私も在外日本人という『移民』なので、つくづく思うのですが、移民はどこまでいっても『移民』。決して「その国の人」になることはありません。

現地語を流暢に話そうが、現地人に交じって立派な仕事をしようが、十年経っても、二十年経っても、「異人」です。

でも、そのこと自体が問題なのではありません。

文化や生活習慣の違いはもとより、権利の違い、待遇の違い、社会的な部分で格差や摩擦が生じた場合でしょう。

だからといって、暴力が容認されるわけではありませんが、それを生み出す背景の一つには違いありません。

映画『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』でもミッキー・ローク演じるスタンリー刑事が、アメリカの町中で悪さし放題の中国人移民の若いチンピラの問題について、チャイニーズ・マフィアの上層に訴えます。

どんなやり方でもいいから、彼らに仕事を与え、更正しろ」と。

この一言が、20世紀から現代に至るまでの移民問題の全てを物語っています。

1985年の、あの経済全盛の時代に、この台詞を言わせたマイケル・チミノ監督はやはり先見の明があったと思わずにいられません。

本作に登場する中国系移民やチャイニーズマフィアは、多分にデフォルメされてるし、(皆が皆、地下の賭博場で悪さをしている訳ではない)、キャラクターの掘り下げ方やエンディングがいまいちな感もあるけれど、今から30年以上前、『昇竜の如き中国の台頭』を描いた点で、非常に意義深いのではないでしょうか。

ここからネタばれです。未見の方はご注意下さい。

映画『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』ダイジェスト

物語は中国の正月のお祝いから始まります。

『ここはアメリカ』のはずなのに、この町の一帯は完全に中国化して、どこの異国に来たのかと思うほど。それだけ中国人移民の文化、生活、影響力がアメリカ社会にも深く根を下ろしているという象徴です。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

祭りの最中、和やかにランチを愉しむチャイニーズ・マフィアのドンに刺客が差し向けられる。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

危険を覚悟でアメリカの中国人社会の闇に切り込もうとする人気ニュースキャスターのトレイシー。
彼女もまた中国系移民の二世だが、社会的に成功している側の立場である。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

この地区に新しく配属されたスタンリー刑事。彼はポーランド移民。
トレイシーが買収された警官に殺人事件に関する意見を聞いている場所に現れる。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

殺されたボスの跡目を継いだジョーイ・タイ。彼は中国人社会の若いリーダーである。
ジョン・ローンがはまりすぎ。まるで池上遼一の『サンクチュアリ』

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

アメリカ社会に深く根を下ろした中国人移民の存在を象徴するワンショット。
星条旗の横にずらずらと。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

危険を承知でチャイニーズマフィアの中枢に乗り込んで行くスタンリー刑事。

言葉も外見も異なる移民の群にはなんともいえない違和感や恐れを感じる。
こういう演出もチミノ監督ならでは。

そんなスタンリー刑事の追及を上層部は煙に巻こうとする。
移民にも移民の理屈があり、存在意義があることをジョーイが主張する。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

スタンリー刑事はトレイシーに接触し、協力を申し出る。
アリアーヌ・コイズミさん、お父さんが日本人、お母さんがオランダ人のハーフだそう。
今でも十分通用する個性的な美貌です。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

レストランを襲撃し、自らも負傷した中国人のチンピラのたまり場に姿を現すジョーイ・タイ。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

やさしい言葉をかけるが、あとはきっちり始末させる。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

スタンリーは中国系の警官をスパイとして送り込み、ジョーイらの会話を盗聴させる。
トレイシーが「勝ち組」の象徴なら、この子は「真面目で平凡なその他大勢」の象徴。
そして、悪人のとばっちりを食うのは真面目な人なんですよね・・。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン
 
処分された二人の若い中国人は、不法労働者が働く地下の食糧工場(?)の、”もやし”のプールで発見される。
この場面も異様の一言。私は一瞬、ミミズと思って戦慄しましたが。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

さらに奥深くに潜入するスタンリー刑事に対し、ジョーイは買収を持ちかける。
ジョーイの後ろには愛する家族の写真がいっぱい。
同族との絆は深い。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

麻薬の商談をまとめる為、アジアの奥深くに赴くジョーイ・タイ。市場のライバルともにこやかに面談。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

麻薬の生産地にも様々な国の力が入り込む。
ライバルの首を切り落とし、商談成立。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

盗聴に気付くジョーイ・タイ。レストランの調理場に行き、スパイを探る。
それにつけてもジョン・ローンが美しい。
池上遼一のドラマに素顔で出て欲しい。(この人に『サンクチュアリ』の北条彰を演じて欲しかった)

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

結局、中国人同士で殺し合う。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

死の間際、麻薬を搭載した貨物船の名前をスタンリーに教える。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

最後は香港アクション映画を彷彿とするような陸橋での打ち合い。

え? これで終わり? なのですが、ジョン・ローンが美しいから許す。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

ジョーイが死に、頭がすげ変わっても、本質は何も変わらない。

この後も中国は昇龍のように上り詰めていく。

賛否両論 中国系移民からのクレーム・・

Wikiによると、やはりアメリカ在住の中国人移民からクレームがあったらしい。
まあ当然でしょうね。

監督のチミノは、Jeune Cinémaとのインタビューの中で、以下のように話している[7]。

この映画は人種差別を扱っていますが、人種差別を推奨するための映画ではありません。
このような問題を扱うにあたって、人種差別の傾向を明かしていくことは必要となります。
かつてアメリカに移住した中国人が経験したように、周辺的な地位に追いやられるということは我々にとっても初めてでした。
そのことについて、人々は、あまりにも無知なのです。
実際1943年まで中国人にはアメリカの市民権が与えられなかったことに、現在のアメリカ人たちは驚くでしょう。
彼等は妻をアメリカに連れて行くことすら許されなかったのです。
クォンがスタンリーに話したことは、称賛されるべきなのです。
これらの理由から、中国人はこの映画が大好きです。
そして、記者たちの批判は、これらの悪い事実を知られたくないところからきているのでしょう。

映画史上、初めて女性の騎馬位を描いた

きわめて真面目な話です。

『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』は、ラブシーンで、初めて女性の騎馬位を描いた作品でもあります。

それ以前は、女性が下になるのが当たり前、男性の上にのって、自ら楽しむという描写はなされなかったんですね。

これは単なるエロではなく、1960年代のウーマン・リブに始まって、1980年代、女性の自立と自由な生き様が最高潮に達した象徴でもあります。

現在のフェミニズムとはまったく異なる、I'm every woman の時代の到来です。(※ アメリカ人に「ホイットニー・ヒューストン」と言うと爆笑される理由

周知の通り、海外の性産業は、『女性の同意』というものが非常に重視されます。

日本の場合、嫌がる女性にエロいことをするのがポピュラーですが、海外では、女性の同意=女性も性行為を楽しんでいる描写が重要ですから、女性が下になるよりも、騎馬位の方がよりアクティブな印象を醸し出しやすいんですね。

実際、昨今のラブシーンは、女性が下になるよりも、騎馬位になって、「私も好き、好き、愛してる~」を強調する描写が大半でしょう。

それは女優さんが下になると、どうしても男性に抑えつけられているイメージが強く、見ていて不快に感じる女性が多いからです。

言い換えれば、『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』で初めて女性の騎馬位が描かれたのは、衝撃的であると同時に、時代の変わり目でもあったということ。

この作品をきっかけに、その後のラブシーンは、『女性が下』から騎馬位が主流になりましたから。

この騎馬位を体当たりで演じたアリアーヌ・コイズミさんが、非常に知的で、美しい方だったことも弾みになったと思います。

女性も、男性の都合に合わせるのではなく、自分から性を楽しんでいいんだということを、全身で表現したわけですから。

また相手役が希代の色男、ミッキー・ロークであったことも印象的です。

今ではほとんど話題になりませんが、『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』はそれぐらい画期的な作品でした。

だけども、世間が理解するには、あまりに早すぎたのです (T^T)

DVD情報:TV放送版日本語吹替音声 収録!

日本語吹き替えが「安原義人」に「池田秀一」ですよ。名前見ただけで、鼻血ふきそう。

ジョーイ・タイ=シャア・アズナブルか・・。味わい深すぎて、頭の中が発酵する。

しかしながら、DVDに日本語吹き替え版は収録されていません。どうかお願いしたいものです。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン [DVD]
出演者  ミッキー・ローク (出演), ジョン・ローン (出演), アリアーヌ (出演), カロライン・カハ (出演), マイケル・チミノ (監督)
監督  
定価  ¥4,900
中古 6点 & 新品  ¥1,352 から
(0 件のカスタマーレビュー)

【追記 2018/04/26】

と思っていたら…… 2017年11月にブルーレイで復活していたようです。

▼SPECIAL FEATURES:
●オリジナル予告編
●オリジナル英語(DTS HD Master Audio 2.0ch + 5.1ch)
●TV放送版日本語吹替音声
※吹替音源の無い箇所はオリジナル英語音声+字幕になります。原音を使用している箇所(台詞の無い箇所含む)は約25分あります。

「安原義人」&「池田秀一」のゴールデンコンビです。しかし、25分も欠落するのは痛い。完全吹替版やって欲しい!!

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン [Blu-ray]
出演者  ミッキー・ローク (出演), ジョン・ローン (出演), アリアーヌ (出演), ヴィクター・ウォン (出演), レナード・テルモ (出演), マイケル・チミノ (監督)
監督  
定価  ¥3,975
中古 1点 & 新品   から
(0 件のカスタマーレビュー)

初稿:2014年7月18日 @ 02:50

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