真澄の人生を変えた マイヤ・プリセツカヤの黒鳥とバレエ『白鳥の湖』

白鳥の湖 オディール
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有吉京子の『SWAN』

バレエ漫画の金字塔。地方のバレエ教室の一世とに過ぎなかった聖真澄が、ロシアの名教師アレクセイ・ミハイロフをはじめ、様々な強敵や天才との出会いを通して、世界を代表するプリマに成長する物語。単なるスポ根にとどまらず、人生とは何か、芸術とは何かを問いかける、哲学的な作品です。この記事はSWANに登場する演目や見どころについて動画で紹介しています。

有吉京子『SWAN』
有吉京子『SWAN』Kindle版
目次 🏃

ロシアの至宝 マイヤ・プリセツカヤ

真澄とプリセツカヤの出会い

北海道の地方都市のバレエ教室に通う聖真澄(ひじり ますみ)は、ロシアの名バレリーナ、マイヤ・プリセツカヤの『白鳥の湖』を観るため、東京の会場に駆けつけます。
しかし、チケットはすでに売り切れ。
どうしても舞台が観たい真澄は、警備員の制止を振り切ってホールに飛び込み、プリセツカヤの踊る黒鳥(ブラックスワン)に感銘を受けます。

一方、日本バレエ界のホープとして期待される鳳バレエ学校の優等生、京極小夜子は、パートナーの草壁飛翔とともに、プリセツカヤに花束を贈呈するために楽屋を訪れます。
そこに真澄が現れ、プリセツカヤと、王子ジークフリートを演じたアレクセイ・ミハイロフの前で、裸足でブラックスワンを踊って見せます。

真澄は関係者に咎められますが、プリセツカヤは「彼女は感動したままを見せてくれたのです」と称賛し、京極小夜子は真澄の踊りに圧倒されて,楽屋を後に浸ます。

この後、真澄はバレエ・コンクールに参加し、京極小夜子や草壁飛翔、彼らの友人である柳沢葵の高志に刺激され、基礎から学び直して、バレエの王道を目指します。

プリセツカヤの黒鳥

こちらが真澄を大いに感動させたロシアの名プリマ、マイヤ・プリセツカヤの黒鳥です。
実際、プリセツカヤは、1970年代に来日し、日本の観客の前で素晴らしい踊りを披露しました。
マイヤ・プリセツカヤの『瀕死の白鳥』 THE DYING SWAN サン・サーンス作曲にも書いているように、筆者がプリセツカヤや『白鳥の湖』を知ったのも、この舞台のNHK中継がきっかけです。
ある舞台では、カーテンコールが100回近く繰り返され、世界最高記録に刻まれているそうです。

こちらは、1973年に撮影された、プリセツカヤとワレリー・コフトゥンの黒鳥の踊り。

プリセツカヤは、最大の見せ場である32回連続の大回転(フェッテ)を踊りません。
「優雅な黒鳥の踊りに、あのようなアクロバティックな振り付けは必要ない」というのが彼女の考えだからです。
『SWAN』では大回転のポーズが描かれていますが、私の知る限り、プリセツカヤは、フェッテで踊ったことがないのではないか……と思います。
(1960年代に撮影された相当古いビデオでも、やはりフェッテはなかったです)

私としては、この映像よりも、今はもう廃盤となったボリショイ劇場のライブ版の方が、彼女の魅力をより良く伝えていると思います。今はもう手に入らないのが残念です。

ちなみに、ボリショイの白鳥を振り付けたユーリー・グリゴローヴィチの選曲は、オーソドックスな黒鳥と若干違っています。

こちらはボリショイ劇場のライブ映像。
今はもう廃盤となってしまいましたが、プリセツカヤの最高の演技を見ることができます。
画像は悪いですが、一見の価値有りです。
90年代、日本でも販売されていて、私もVHSビデオを所有していました。

プリセツカヤとアレクサンドル・ボガティリョフの黒鳥の踊り。1976年撮影。ボリショイ劇場にて。

プリセツカヤの黒鳥ソロ。

第二幕。オデットの登場。
さざ波のようなアームの動きと、白鳥から人間に戻る瞬間の素晴らしい演技に注目。

毅然としたコーダ。女王の気品あふれる白鳥です。

こちらは、パリ・オペラ座の名手、マリ・クロード・ピエトラガラによる黒鳥。相手役はパトリック・デュポン。
超絶技巧が冴える彼女ならではの32回転が観られます。
四拍目のドゥーブル(2回転連続)も綺麗に決まるのはさすが。

ちなみに、『SWAN』の世界バレエ・コンクールでは、真澄の好敵手ラリサ・マクシモーヴァが全てにドゥーブルを入れるという離れ業をやってのけます。
いったい、どんな踊りだったんでしょうね(汗)

こちらは、ギリアン・マーフィー(アメリカン・バレエ・シアター)によるパ・ドゥ・ドゥと大回転。
繊細ながら、技は大胆で性格。
ドゥーブルも楽々きまって、会場の興奮が伝わってきます。

バレエ『白鳥の湖』について

物語と見どころ

第一幕 宮廷

王子ジークフリートの成人を祝って、友人や村の若者たちが宴を開きます。
そこに王妃(ジークフリートの母)がやってきて、明日の舞踏会で花嫁を選ぶよう、王子に告げます。
自由気ままな独身時代もこれで終わり。
王子の胸に深い感慨が去来し、友人の誘いも断って、一人、庭に佇みます。
夕暮れの空に白鳥の群れが飛んでいくのを目にした王子は何かに導かれるように、成人祝いに贈られた弓を手にして、湖に向かいます。

この場面の見どころは、豪華絢爛な貴族の宴と、王子の友人らが繰り広げる溌剌とした躍りです。
また、道化と家庭教師のやり取りも面白く、道化のアクロバティックなソロは第一幕の見せ場になっています(個性派のダンサーが演じることが多い)

しかし、日が暮れると一転。
有名な白鳥の主旋律が流れ、王子は感慨に耽ります。
それまで陽気に遊んでいた王子が、ふと孤独を感じ、大人の男の表情になっていく演技が必見です。

第二幕 湖のほとり

深い森の中にある湖のほとり。
ジークフリート王子は、群れの中でもひときわ美しい白鳥に目を留め、弓を射ようとします。
ところが、白鳥は岸に上がると、美しい娘に変身します。
オデット姫は、かつて悪魔ロットバルトの求愛を拒んだために、白鳥に姿を変えられ、夜の間だけ人間に戻ることができました。
呪いを解くには、誰も愛したことのない若者がオデットに永遠の愛を誓うしかありません。
オデット姫に心惹かれた王子は、我こそが悪魔の呪いに打ち勝ち、姫を救い出すことを誓います。
二人は再会を約束して、別れていきます。

第二幕の見どころは、白鳥からオデット姫に変身する場面です。
舞台に背を向けて、アームの動きだけで白鳥を表現し、一歩、二歩と前に進み出て、人間の娘に戻る。
そして、王子に出会って、驚きと恐れを見せる。
わずかな時間、ドラマティックに変化するので、主役の力量が問われます。

ちなみに筆者は、この場面がいまいちなオデット姫は続きを観る気がしません(^_^;

私が見た中では、プリセツカヤが非常に上手いです。間の取り方が。

第三幕 舞踏会

次の夜。
城の広間では、各国の姫や貴族を招いて、盛大な舞踏会が催されます。
王子は花嫁候補の姫と次々に踊りますが、誰も気に入らず、母である王妃を困らせます。
突如、ファンファーレが鳴り響き、貴族になりすました悪魔ロットバルトと娘のオディールが会場に現れます。
オデット姫に瓜二つのオディールに王子はたちまち心を奪われ、結婚相手に選びます。
その瞬間、雷鳴が鳴り響き、ロットバルトとオディールが正体を現します。
騙されたことを知った王子はオデット姫を救うため、湖に戻ります。

第三幕の見どころは、民族性を強調した各国の姫の踊りです。
スペインの踊り、ナポリの踊り、ハンガリーの踊り、マズルカなど、民族衣装に扮した姫達の踊りに目を奪われます。
また、黒雲急のように現れるロットバルトとオディールの存在感も見逃せません。
クライマックスの黒鳥の踊りでは、勝ち誇るような大回転(32回転)が盛り込まれ、プリマの腕の見せ所です。

また、振付師によって、演出が様々に異なるのも興味深いです。
オデット姫が城の窓辺に佇んで、王子の裏切りを目の当たりにする演出もあれば、ぞろぞろと黒鳥が現れる演出もあり、見比べるのも楽しいです。

なお、王子は本当に騙されたのか、それとも、うすうす別の女性と気づきながら、オディールの魅力に抗えなかったのか。解釈の分かれるところです。
有吉京子の『SWAN』でも、そうした解説があります。
いわば、オディールは人間の心の闇を象徴するキャラクターです。

こちらは英国ロイヤルバレエの、王子とオディールのパ・ド・ドゥ。
黒鳥のオディールには、邪悪ながらも、暗黒の王女らしい気品が求められます。

第四幕 湖のほとり

誓いが破られ、オデット姫は嘆きます。
そこに王子が現れ、許しを請いますが、ロットバルトに阻まれ、二人は再び引き離されます。
オデットは湖に身を投げ、王子も後を追います。
呪いは破られ、二人は天国で幸せに結ばれます。

ちなみに、ボリショイ・バレエのユーリィ・グリゴローヴィチ版では、王子が悪魔に打ち勝ち、オデット姫は人間に戻って、幸せに結ばれるエンディング。
このあたりは、振付師によって解釈が様々で、見比べると面白いです。

ぴあ別冊『バレエワンダーランド』によると、

キーロフ・バレエのコンスタンチン・セルゲーエフ版
ロシアのスタンダード。叙情性をたたえた、美しい舞台が魅力。

ボリショイ・バレエのユーリィ・グリゴローヴィチ版
善悪を強調した演出が特徴。
王子とロットバルトのダイナミックな対決も見物で、スペクタクル性が強い。
ちなみにプリセツカヤが踊っているのはグリゴローヴィチ版。
SWANもグリゴローヴィチ版を意識してると思います。

モスクワ音楽劇場のブルメイステル版
通常、演奏だけの序曲(プロローグ)にも踊りがあり、悪魔ロッドバルトが花を摘むオデットに懸想し、求愛を拒まれると、呪いをかけて、オデットが白鳥に変身する場面が描かれています。
エピローグでも、呪いが解けて、人間の娘に戻る演出が取り入れられている。
90年代、ピエトラガラの時代、パリ・オペラ座がブルメイステル版を取り入れてました。

ヌレーエフ版
マーゴ・フォンティーンとのペアで有名なルドルフ・ヌレーエフ版は、オデット姫もジークフリート王子も身投げして絶命する大悲劇。
しかし、現代では、身投げ版が主流の模様。

バリシニコフ版
原典通り、オディールに白い衣装を着せ、納得のいくストーリー展開にしようとしたことで知られる。
筆者は観たことがない。

上演にまつわるエピソード

『白鳥の湖』は古典の中の古典なので、時を経て、内容もずいぶん変わっています。
以下、ぴあ『バレエワンダーランド』より。

今でこそバレエの代名詞と知られる『白鳥の湖』だが、意外にも1877年のモスクワ・ボリショイ劇場での初演は不評だったといわれる。
シャイ誇負スキーの交響楽的な密度の高い音楽を理解できなかったライジンガーの振付けが平凡だったから、というのが一般的な見方だ。
この作品が現在のような名声を勝ち得たのは、1894年にペテルブルクのマリインスキー劇場で開かれたチャイコフスキーの追悼演奏会で、イワーノフ振り付けの第二幕だけが抜粋上演されてからのこと。
翌年のプティパによる第一&第三幕、イワーノフの第二&第四幕振付の全幕の経済が、現在世界中で上演されているもののオリジナル版である。

出典 : ぴあ『バレエワンダーランド』(1994年)

ちなみに、イワーノフの第二幕(オデットとジークフリートの出会い)は、現在も当時の台本を踏襲し、それだけ完成度が高い証しと言われています。
第三幕や第四幕の解釈は、振付師の好みで、かなり大胆に改変が加えられていますが。

『白鳥の湖』の面白さは、台本がほとんど変わらない『眠りの森の美女』や『くるみ割り人形』や『ジゼル』と異なり、ハッピーエンドあり、悲劇ありで、振付師の思想や各国バレエ団の個性が反映しやすい点にあるのかもしれません。

初稿  2010年4月30日

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