目と目で見交わす愛 映画『スパルタカス(1960年)』カーク・ダグラス / スタンリー・キューブリック

目と目で見交わす愛 映画『スパルタカス(1960年)』カーク・ダグラス / スタンリー・キューブリック
記事について

名優カーク・ダグラスがスパルタカスの反乱を演じる歴史スペクタクル。現代の戦争映画とは比較にならないほど地味な演出だが、ラブシーンは温もりに満ち、テーマ曲も美しい。見どころを動画付きで解説。

目次 🏃

映画『スパルタカス』 あらすじと見どころ

スパルタカス(1960年) - Spartacus (共和制ローマ期の剣闘士。第三次奴隷戦争の指導者として知られる。実在の人物)

監督 : スタンリー・キューブリック
主演 : カーク・ダグラス(スパルタカス)、ローレンス・オリヴィエ(クラッサス)、ヴァリニア(ジーン・シモンズ)
脚本 : ダルトン・トランボ

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あらすじ

共和制ローマの次代。トラキア人奴隷スパルタカスは、倒れた奴隷を助けようとして、衛兵に反抗し、餓死刑に処せられるが、剣闘士養成所のバタイアタスに見出され、剣闘士としての特訓を受ける。やがて女奴隷のヴァリニアと恋仲になり、スパルタカスも人間らしさを取り戻すが、ローマの軍人クラッサスがヴァリニアの美しさに目を留め、バタイアタスから買い取ろうとする。
ヴァリニアが売られていくのを目にしたスパルタカスは、ついに反乱を起こし、仲間を引き連れて、ヴェスヴィオ山中に立てこもる。
クラッサスはスパルタカスの討伐に乗り出し、ついに反乱軍を制圧する。
反乱に加わった者は全員がアッピア街道で磔にされ、スパルタカスは最後にヴァリニアと息子の顔を見て、息を引き取る。

見どころ

現代の戦闘シーンを見慣れている映画ファンには、さすがにモッサリした印象が否めないが、逆に過激な演出がない分、上品に感じる。
役者はみな貴族のような顔立ちだし、アクション映画というよりは、歴史絵巻のよう。
映画自身より、制作にまつわるハリウッドの裏事情の方が面白く、脚本を手がけたダルトン・トランボの伝記映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(字幕版)』と併せて見ると、時代背景や動機がよく分かる。
(トランボは、60年代の赤狩りによって、映画界から追放された。しかし、過剰な対応に疑問を抱く人も多く、次第に世の価値観も変わっていく。カーク・ダグラス役の俳優さんが本物ソックリで、「キューブリックは気難しい」云々のコメントが登場。そして、トランボにとっては、この作品がハリウッド復帰の第一弾となった。カーク・ダグラスは赤狩りに抗議する意味もあって、トランボを堂々と起用したとのこと)

良くも悪くも、ハリウッド、および米国の一大転機となった作品で、これもスパルタカスの霊力(?)と思えば、興味深い。

映画『スパルタカス』の上質な魅力

抑えた描写が作品の味わいを増す

カーク・ダグラス主演の映画『スパルタカス』は、共和制ローマ期に起きた「第三次奴隷戦争」を題材にした古典的名画です。

剣闘士(グラディエーター)のスパルタカスに率いられた大規模な戦いは、『スパルタカスの反乱』と呼ばれ、映画、小説、バレエなど、様々な作品に描かれてきました。

1960年、かのスタンリー・キューブリックを監督に迎え、カーク・ダグラスが制作の総指揮をとった『スパルタカス』もアカデミー賞を総ナメにし、ハリウッドの古典として今も評価が高いです。

私はボリショイ・バレエ団の振付師、ユーリー・グリゴローヴィチの傑作と名高いバレエ『スパルタカス』のファンなので、映画はまったく興味なかったのですが、最近、ビル・エヴァンスの名曲『Love Theme from Spartacus』の美しさに魅了され、この映画に行き着いた次第です。

なんと言っても、昔の作品なので、『グラディエイター』や『ブレイブハート』のような戦闘シーンを見慣れている世代には物足りなく感じますが、テーマ音楽『愛のテーマ』は美しいし、役者も、カーク・ダグラス、ローレンス・オリビエ、ピーター・ユスチノフなど名優ぞろい。

逆に、斬首されたり、血が飛び散ったり、槍が突き刺さって、グエーッと悶えたりする過激な演出がないので、気持ちよく鑑賞することができます。

本来、戦闘の描写は、この程度でいいんじゃないか――現代がやり過ぎではないか……と思わずにいられないほど。

監督は、『2001年宇宙の旅』や『時計じかけのオレンジ』といった傑作でブレイクする以前のスタンリー・キューブリックで、Wikiによると、制作総指揮にかかわったカーク・ダグラスとは意見が合わず、作品や制作サイドの批判をしていたことから、カークにも「才能のあるクソッタレ」呼ばわりされていたとのこと。

確かに『時計じかけのオレンジのキチガイじみた暴行シーンや、『シャイニング』のオカルト演出に比べると、『スパルタカス』は優等生的で、きれいにまとまりすぎている印象がなきにしもあらずです。

しかし、剣闘士が殺される場面のさりげない道具使いとか(木の板の隙間から闘技場を撮影し、血や殺戮場面を見せずに殺されたことを示唆する)、女声の裸体を影の中に浮かび上がらせる手法などは、やはり上手いです。

そして何より素晴らしいのは、スパルタカスと女奴隷ヴァリニアの愛の眼差し。

最近の作品がやたら「脱ぐ」「絡む」で、愛し合ってることを表現するのに、なんでそこまでハードな濡れ場を演じにゃならんのだ? と突っ込みたくなるだけに、この作品の温かなラブシーンは胸に迫るものがあります。

抒情的な愛の場面

奴隷として自由を奪われているのは女性も同じ事。彼女たちは順繰りに剣闘士にあてがわれ、夜の相手をさせられます。

そしてスパルタカスの独房に送られたのが美しいヴァリニア。「女性は初めてだ」というスパルタカスは、恐る恐る彼女の肌に触れ、長い髪を愛撫します。

が、突然、独房の上から嘲るような声が。

なんとローマ兵たちは独房の格子窓から剣闘士の性行為を覗き見、笑いものしていたのです。

「オレは動物じゃない!」と叫ぶスパルタカスに、「私も動物ではないわ」と答えるヴァリニア。知的で気品のあるヴァリニアの美しさに心ひかれたスパルタカスは彼女に衣類を与え、互いの人間性を尊重します。

女奴隷は台所などの下働きもしていますが、剣闘士と交流することは許されていません。

が、そんな禁忌をおかしても、スパルタカスは給仕に来たヴァリニアに「彼らは君を傷つけたりしなかったかい?」と優しく尋ね、その手を握りしめます。

ほんの一瞬なのですが、ロミオとジュリエットのような切なさと、あふれるような恋心が感じられ、とても美しい場面に仕上がっています。そっと触れ合う手をアップで映したキューブリックの感性もいいですね。

『スパルタカス 愛のテーマ』がまた泣かせます。


こちらは有名な『愛のテーマ』。


死を見世物にされる剣闘士

剣闘士にとって、戦いは武勲ではなく、命を懸けた見世物です。

共に励まし、支え合った仲間でさえ、どちらかが死ぬまで戦わなければなりません。

出場者に選ばれた四人が闘技場に着くまでの、切なくも緊迫した雰囲気が印象的な場面です。

この日はローマの将軍クラックスが美しい婦人達を伴い剣闘士の競技を楽しみますが、スパルタカスにとどめを刺そうとした剣闘士がとった行動は意外なものでした・・。

この場面、スパルタカスの前に他の剣闘士二人が戦うのですが、その最期を木の板の隙間越しに撮ってるのが上手いんですね。

闘技場で闘う二人にフォーカスせず、死の順番を待つスパルタカスと対戦相手の二人に視点を置くことで緊張感を高め、剣闘士の悲運をより強く感じさせる演出になっています。

スパルタカスの反乱

クラックスに見初められたヴァリギアは、ローマへと売られて行きます。

それを目にしたスパルタカスはついに決起。

仲間も力を合わせてローマ兵と戦い、収容所から脱出します。

スパルタカスを指導者とする反乱軍は、ローマに虐げられた人々の支えもあって、数万の規模に膨れあがります。

それに対し、ローマはクラックスを指揮官とする大軍団を投じ、討伐に乗り出します。

圧倒的な力の差により反乱軍は敗北し、クラックスは「首謀者のスパルタカスを差し出せば、他の者の命は助けてやる」と捕虜に呼びかけますが、スパルタカスを心から信じる捕虜たちは、「俺がスパルタカスだ!」と次々に名乗り出て、クラックスはスパルタカス本人を捕らえることが出来ません。

『グラディエーター』や『ブレイブハート』に比べると、小学校の騎馬戦みたいですが、手足を切断したり、顔に弓矢が突き刺さったり、、、もういい加減、ウンザリでしょ?  
戦闘シーンはこれぐらいでいいんじゃないかと思います。

反乱軍の処刑とスパルタカスの別れ

捕虜達は次々にアッピア街道に磔にされ、その数は6000にものぼりました。

やがてスパルタカスの存在に気付いたクラックスは、最後まで生き残った彼の友人アントイナスとデスマッチを要求し、生き残った方を磔にすると命じます。

アントイナスは「俺にお前を殺させろ。お前を磔刑になどさせるものか(磔の方がより酷い苦しみを与えるため)」と言いますが、スパルタカスはアントイナスを絶命させ、自ら磔を選びます。

同じくローマに捕らえられたヴァリニアはクラックスの求愛を受けますが、それをきっぱり拒絶し、かつての敵だったバタイアス(剣闘士収容所の長)の手引きにより脱出します。そして、アッピア街道で磔にされたスパルタカスに生まれたばかりの息子の顔を見せ、「この子は自由になったのよ」と告げると、新しい人生の為に遠く旅立って行くのでした……。

剣闘士を描いた作品と言えば、リドリー・スコットの『グラディエーター』が有名ですが、キューブリックの『スパルタカス』は、「自由への戦い」をより色濃く描いており、『freedom』がキーワードになっています。

ちょっとプロパガンダな匂いがしないでもないですが、1960年代のハリウッド大作はどれも「共通の匂い」がするので、素直にエンターテイメントとして楽しむのが吉。
(プロパガンダな部分は、当時の赤狩りを反映しているのでしょう)

それにしても、この頃の映画はセリフもシンプルだし、俳優さんの発音も明瞭で、『良質』という言葉を絵に描いたような傑作が多いです。

しかも主演俳優はギリシャ彫刻のように顔立ちが整い、女優さんも気品があって、立ち居振る舞いが美しい。

アン・ハサウェイやペネロペ・クルズのような現代美女も、それはそれでカッコイイと思いますが、本来、「銀幕のスター」というのは、神秘と高貴さを称え、永久に手の届かない存在だから「スター(星)」と呼ぶのではないでしょうか。

いくら才能があっても、あまりに私生活や思想信条が丸出しだと、憧れも薄れます。

ともあれ、カーク・ダグラスの渋い魅力と古典的名画の品が輝く『スパルタカス』。

現代ハリウッド映画の騒々しさに疲れたら、ぜひ土曜の夜にのんびりご鑑賞ください。

心があらわれますよ。

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初稿: 2011年12月20日

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この記事を書いた人

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。アニメから古典文学まで幅広く親しむ雑色系。科学と文芸が融合した新感覚のSF小説を手がけています。看護師として医療機関に勤務後、東欧在住。石田朋子。amazonの著者ページ https://amzn.to/3btlNeX

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