スティングの大人のラブソング 『It's probably me』&『Shape of my heart』

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アルバム『テン・サマナーズ・テイルズ』

ジャズ・テイストを取り入れたソロ第一弾の『ブルータートルの夢』、スティング最高傑作といわれる『ナッシング・ライク・ザ・サン』、父の死をきっかけに原点回帰した『ソウル・ケージ』に続く、大ヒットアルバム『テン・サマナーズ・テイルズ』。

テン・サマナーズ・テイルズというアルバム名よりは、レオンのエンディングに使われた『Shape of my heart』、リーサル・ウェポン 4 のエンディングに使われた『It's probably me』という曲名の方が有名なのではないだろうか。

『ブルータートルの夢』も『ナッシング・ライク・ザ・サン』も『ソウル・ケージ』も、どこか通好みの作りで、あまり大衆に訴えかける内容ではなかったが、この2曲は商業的とでも言うのだろうか、大衆好みの曲調で、上記の大ヒット映画にもよくマッチしていたと思う。

あるいは、この2曲をセレクトしたリュック・ベンソンら、映画人のセンスが秀逸だったのかもしれないが。

『テン・サマナーズ・テイルズ』は、ライナーノートを手がけた東郷かおる子氏によると、「スティングにとって前作 Soul Cage は、"作ったことで心理的な治療のような効果をもたらしたアルバム"であったと言う。それが、この新作『Ten Summoner's Tales』を聴く時のキーワードかも知れないと思う。なぜなら、お聴きの通り実に軽やかで、明るい印象だからだ」。

確かにその通り。

シンクロニシティ』で、びんびんに飛ばしていたスティングが、突然、ドル箱のザ・ポリスから抜け出し、『ブルータートルの夢』のような、まったく曲調の異なるジャズ・テイストのアルバムをリリースしたかと思えば、『ナッシング・ライク・ザ・サン』では随分センチメンタルになり、このまま、どんどん、アッチの人になるのかと心配していたら、この『テン・サマナーズ・テイルズ』で、調和の取れたポップス界に回帰した感じ。

いわば、先の三枚は、ポップスターの座から離れて、自分と向き合うためのプロセス。

本来の自分自身に戻るために不可欠な寄り道だった。

その結果、大衆から背を向けることなく、また媚びすぎもしない、程よい位置に着地点を見つけたという気がする。

東郷氏によると、「タイトルの『Ten Summoner's Tales』とは、イギリスの散文物語集として有名なカンタベリー物語の一面、"Summoner's Tales"(Summonerとは中世に罪人を法廷に引き出す役目を持った召喚人のこと)と、スティングの本名ゴードン・サムナーの両方をひっかけたジョーク(彼は文学的ジョークと言った」とのこと。

スティングの作品が、いつも私達の心を打つのは、その音楽の完成度の高さ、ジャンルにこだわらない柔軟さであると同時に、誠実さ、生真面目さ、そして正直さであると思う。その意味では、この「Ten Summoner's Tales」に聴く明るさは、彼が今、公私ともに充実した幸福な時機にあるということを感じさせる。
人は悲しみに触発されたものの方を高く評価する傾向にあるが、喜びや、解放感もまた私達には必要不可欠なものだ。
「聴く人が微笑を誘われるようなアルバムでありたい」
スティングは新作について、こう言っている

文: 東郷かおる子 (1992年12月)

映画『レオン』と『Shape of my heart』

スティングの独立後、『イングリッシュマン・ニューヨーク』に並んで、最もよく知られているのが、リュック・ベンソンの代表作『レオン』(ナタリー・ポートマン&ジャン・レノ主演)のエンディングに使われた『Shape of my heart』だろう。

初めて『レオン』を鑑賞し、エンディングにスティングの曲が使われているのに気づいた時、若干、違和感を覚えたものだが、歌詞の『でも僕のハートの形は違うんだ』という一文で、ベンソン監督がこれを選曲した理由に納得いったものだ。

『買って金を稼ぐためにカード遊びするわけでもなければ 尊敬されたいがためにやっているわけでもない』という歌詞も、レオンの心情にマッチしている。

『彼は答えを見つけ出そうとカードを配る。その為に、生き、殺し、また次の指令を待つ』も、レオンの生き様をよく表している。

瞑想に耽るがごとくカードを配るひとりの男
彼に疑いをさしはさむ者など一人もいない
勝って金を稼ぐためにカード遊びをするわけでもなければ
尊敬されたいがためにやっているわけでもない

彼は答えを見つけ出そうとカードを配る
チャンスに関する神聖なる幾何学
起こりうるべき結果についての隠された法則
数字がすべてを引きずり回す

わかっているよ
スペードは兵士の剣で
クラブは戦争の兵器だということを
この世界ではダイヤがお金だということもね
でも僕のハートのかたちとは違うんだ

彼はダイヤのジャックを切ってくるかもしれないし
スペードのクイーンを場に出すかもしれない
キングを手の内に隠したまま
その記憶ばかりが薄れていくかもしれない

わかっているよ
スペードは兵士の剣で
クラブは戦争の兵器だということを
この世界ではダイヤがお金だということもね
でも僕のハートのかたちとは違うんだ

きみを愛しているって告白したら
何かおかしいんじゃないかってきみは思うかもしれない
ぼくって表情をごまかすことができないんだ
何でもすぐに顔に出てしまう
ペラペラ喋る奴ほど何もわかっちゃいない
結局は痛い目にあうだけさ
ありとあらゆるところでついていないって
悪態をついている奴らのように
そして笑っている奴らが最後には負けるのさ

わかっているよ
スペードは兵士の剣で
クラブは戦争の兵器だということを
この世界ではダイヤがお金だということもね
でも僕のハートのかたちとは違うんだ

対訳:中川五郎 CDアルバム『テン・サマナーズ・テイルズ』より

ちなみに『レオン』の挿入歌として有名なのが、ビョークの『Venus as a boy(少年ヴィーナス)』。

参考記事→ すべてが見えたから もう他に見たいものなどないの ~ビョーク『ダンサー・イン・ザ・ダーク』&『レオン』

こちらも、マチルダとの逃避行(同居生活)をクリップ風に描いた演出が印象的だった。

映画『リーサルウェポン 4』と『It's probably me』

『Shape of my heart』に並んで有名なのが、エリック・クラプトンと共演の『It's probably me』

こちらはアダルトなムードの漂う、大人のラブソングだ。

アルバムの曲順では、『Shape of my heart』よりも先に収録されており、私にはこちらの曲の方が印象に残った。

今ではしっぽりと聴かせる大人のラブソングも少なくなり、『It's probably me』のような歌詞と曲調が懐かしい。

たとえば凍てつく夜
最もくっきりと見え
きみは寒さのあまり思わず自分のからだを抱きしめる
朝目が覚めてみると誰かがコートをかけてくれている
人の気配などまるでないのに

きみはひとりごちる
わたしを見守ってくれていたのは誰
わたしのたったひとりの友だち それはいったい誰
言いにくいことだけど
言いたくないけれど
でもそれはきっとこの僕なんだ

お腹の中はからっぽ
飢えに苛まれても
物乞いするには気高すぎ
盗みをはたらくには要領が悪すぎるきみ
たったひとりの友だちを探して
きみはこの大都会をくまなく歩き回った
だけどひとりとして出会えない
きみはひとりごちる
誰もいないのかしら
孤独の叫びをあげれば きみは解き放たれる
言いたくないけれど
言わずにおきたいけど
でもそれはきっとこの僕なんだ

きみが一筋縄ではいかない相手だということに
気づいていないわけじゃないさ
おまけに好きなようにさせてやればいいじゃないかって
誰かに言われたそうだな
僕が泣けばすむことだものね
だけどきみのためなら
命を投げ出して死んでもいいという男がどこかにいるとすれば
なかなか言えないけれど
言いにくいことだけど
でもそれはきっとこの僕なんだ

世の中がおかしくなってしまって
何も道理も通らなくなってしまい
自分以外 誰も弁護してくれる者はいない
陪審員たちも立ち去ってしまい
きみはからっぽの部屋を眺めてやるだけ
たったひとりだけでいいから
味方に出逢えたらとおもわずにはいられない
でもひとりの男がいるとしたら
きみのためなら命を投げ出して死んでもいいという男がいるとしたら
なかなか言えないけど
言わずにおきたいけど
でもそれはきっとこの僕なんだ

なかなか言えないけど
言わずにおきたいけど
でもそれはきっとこの僕なんだ

対訳:中川五郎 CDアルバム『テン・サマナーズ・テイルズ』より

正直、この曲と『リーサル・ウェポン 4』の接点が分からず、選曲でいえば、まだ『レオン』の方が理解できるのだけど。
(この曲に歌われている「僕」はメル・ギブソンのイメージでもないし^^;)

それでもあの映画を通して、この曲が広く知られるなら、それもいいのかも。

ちなみにさびの部分、印象的にリフレインされる歌詞において

It's hard to say it
I hate to say it
But it's probably me

「言いにくいこと」が「It's hard to say it」で表されるのを知ったのは収穫だった。

さすが、英国の元高校教師である。

以下、『テン・サマナーズ・テイルズ』のリーフレットより。

CD『 テン・サマナーズ・テイル』のリーフレット

CD『 テン・サマナーズ・テイル』 ライナーノーツの東郷かおる子

CD『 テン・サマナーズ・テイル』のライナーノーツ 中川五郎

CDの紹介

本記事で紹介したアルバム。Spotifyでも全曲が視聴できます。アルバムリンクはこちら

前作の『ソウル・ケイジ』とはうってかわって明るい色調のCD。
ボサノヴァやロックなど色鮮やかな音楽が収録されている。
私自身の評価はイマイチ(やはり前々作の『ナッシング・ライク・ザ・サン』のインパクトが非常に大きいため)なのだが、後に続く『ブランニュー・デイ』『セイクラッド・ラブ』の習作という感じで、スティングの歴史を知りたい人には興味深い一枚だ。

【Amazon レビューより】
タイトルにあるサマナーというのはスティングの本名。その名のとおり、スティングのそれぞれ違う10通りの個性が現れている作品といえる。
一連に流れているテーマは主に男女間の愛で、詩を眺めていると思わずにやりとさせられたり、なるほどと思うところもあり、洗練された詩の中に強烈な男の愛を感じてどきりとさせられる。
映画「レオン」のテーマ曲も収録されていて、特に女性にお勧めです。

本作で興味を持ったら、絶対に聴いて欲しいのが、スティングの最高傑作と名高い『ナッシング・ライク・ザ・サン』。
今や世界のスタンダードとなった『イングリッシュ・マン・ニューヨーク』『フラジャイル』は鳥肌もの。

初稿 2008年11月28日

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