昨今、問題視されているネタバレ・サイト(ファスト動画も含む)ですが、利用する人の動機もさまざまで、それを生み出す背景を理解しない限り、根絶するのは難しいと思います。
何故なら、需要がある限り、供給も続くからです。
そこで、ネタバレサイトについて思うことを、二、三、書き綴ってみました。
何かの参考になれば幸いです。
ネタバレに対する意識の変化 ~検索エンジンの仕様変更と映画ブロガーの激減
2000年~2010年代にかけて、個人ブログが活況だった頃、ネット上には、真性・映画ファンによる激アツのレビューサイトが多数存在し、コメント欄も目利きの映画ファンで賑わっていました。
彼らのサイトは、作品解説と感想のみならず、制作の背景、名場面に登場する小道具の意味、俳優や役者の知られざるエピソードが満載で、《中の人》が匿名で運営しているのではないかと思うくらい、愛とウンチクにあふれていたものです。
また、閲覧する人も、非常にボルテージが高く、うっかりネタバレしようものなら、「お前のレビュー記事を見て、結末が分かってしまったじゃないか! ネタバレなら、ネタバレと、ちゃんと冒頭に明記しとけ、馬鹿野郎!」とひどく叱られたものです。
ゆえに、名うての映画ブロガーも、核心に触れつつも、いかにネタバレしないかに細心の注意を払い、「視聴後」「未見」の視聴者に合わせて、コンテンツの見せ方も工夫していたものです。
ところが、Googleをはじめとする検索エンジンが、アルゴリズムの改良に改良を重ねた結果、真性ファンによる良質な映画サイトは圏外に吹き飛び、公式サイトや法人サイトばかりが上位表示されるようになりました。
配役とあらすじと上映時間ぐらしか情報のない公式サイト、「途中で3回ぐらい寝た。星一つ」みたいな、くだらない三行コメントで埋め尽くされた法人サイトの映画カテゴリー、映画の感想などどうでもよくて、PVさえ釣れたらそれでいい売り上げ第一のアフィリエイトサイト、業界内でヨイショし合う忖度しまくりの有名人アカウント、等々です。
忖度なし、商売っ気なしの、映画の感想を知りたくても、その手のサイトしか上位表示されないので、自ずと視聴者は検索エンジンからも、映画サイトからも離れてしまうし、人が離れれば、今まで一所懸命に更新していた映画ブロガーも運営を止めてしまいます。
その結果、ますます、薄っぺらい情報サイトばかりがネットを埋め尽くすようになり、頼るところのない視聴者は世間から取り残されることになります。
以前なら、タイトルや役者名で検索すれば、激アツの映画ブログに簡単にヒットし、一ファンの目から見た作品の魅力や独自の感想を読んで、視聴の参考にすることができましたが(ついでに、視聴後、コメント欄でブロガーやファンとわいわい意見交換する楽しみもあった)、今は配役とあらすじぐらいしかない公式サイト、時流に乗っかっただけの薄っぺらいランキング系アフィリ・サイトぐらいしか上位表示されないので、これといった情報が得られない人は、「とりあえず鑑賞する」という旧来の視聴スタイルから、「先にあらすじを把握して、事前に良し悪しを判断してから見る」に変わっていきます。
「時間を無駄にしたくない」というのも大きな理由かもしれませんが、事前に有益な情報を得られない事も一因になっているのではないでしょうか。
たとえば、ネット以前は、映画雑誌が盛んで、TVでも旬の映画を特集していました。
エイリアン、ブレードランナー、タイタニック、ダイ・ハード、トータル・リコール、ランボーなど、映画にさほど興味なくても、日本国民の大半が主演と概要ぐらいは知っていましたし、毎月、映画雑誌の隅から隅まで目を通すファン層は、「一足先にハリウッドで鑑賞した映画評論家の感想」や「主演俳優が新作の抱負を語る特別インタビュー記事」などを頼りに、「これは自分好み」といったことを直感したものです。
ところが、ネットの普及で、映画雑誌はなくなり、全国区を対象とした特番なども激減すれば、情報も浅く、狭くなり、「映画についてもっと知りたい」という動機も薄れます。
いくらSNSで感想をシェアできるといっても、映画ブログのコメント欄や掲示板のようなディープなやり取りはありませんし、せいぜい、「いいね」がぽこぽこと付いて、浅い手応えが得られる程度。どこの、何が、良かったのか、皆で意見を交わし、他人のコメントに触発されることもありません。
そればかりか、業界内の忖度で、「すごい、面白い、天才だ」みたいな内輪ヨイショばかりが目につき、SNS全体がステマみたいなものです。
まともな評論が機能しないので、視聴者も作品の背景を勉強したり、考察する機会を失い、ますます映画に対する愛情も薄れていきます。
感想も、「いいね(面白い)」「無反応(面白くない)」の二通りしかないので、視聴者も量をこなすことしか興味がなく、「いろんなものを浅く、広く見て、深い理解した気分になる」というのが現状ではないでしょうか。
以前、有名漫画家が、「一ページから情報を読み取れる読者が少なくなった」と嘆いていましたが、映画もそれと同じ。
作り手がどれほど創意工夫を凝らそうと、観る側にそれなりの知識と教養がなければ理解されないし、本来、視聴者教育を担ってきた映画誌や特番、ネット時代においては、個人の激アツ映画レビューやファン掲示板が激減してしまった今は、「じっくり鑑賞して、理解しろ」という方が無理なのではないでしょうか。
端的に言えば、ネタバレ・サイトを利用する人たちはアーティストや作品に対する敬意が足りないのではなく、そもそも作品の見方が分からない、物語の鍵となる隠れアイテムや比喩が理解できない、(知らない)、心に何か感じても、それをどう表現すればいいのか分からない……ということです。
その点、ネタバレ・サイトは、ストーリーのみならず、トリックまで教えてくれるので、便利ですよね。
実際、そこまで教えてもらわないと内容が理解できない視聴者が増えている現状を抜きにして、ネタバレ問題は語れません。
ネタバレ・サイトが普通だと思っている若いネットユーザー
最近、本格的にネットで情報収集するようになった若いネットユーザーにとっては、薄っぺらいランキング・サイトやネタバレ・サイトが世界標準になっている理由も大きいと思います。
ネタバレや著作権のルールを弁えた良質な映画ブログが激減したことで、お手本となるコンテンツを目にする機会もなくなり、若いユーザーには良し悪しを判断する材料もありません。
何所に行っても、インチキ医療本やヘイト本が山積みされている書店と同じです。
おじさん、おばさんは、大衆紙から専門書まで、豊富に取りそろえた本屋が当たり前のように駅前に存在し、出版社のモラルもそれなりに厳しかった時代を知っているから、その異様さが分かるのであって、生まれた時から、インチキ医療本やヘイト本に囲まれた中にいれば、違和感も感じません。
ネットユーザーもそれと同じ。
映画について検索したら、すぐにネタバレサイトにヒットする現状で、問題を意識しろと言う方が無理でしょう。
若いネットユーザーは、お手本となるコンテンツを目にしたこともなければ、忖度なし・商売気なしの、真性ファンのよるレビューサイトもほとんど見たことがありません。
情報収集といえばSNSが主流で、広告と釣りと忖度が渦巻く世界です。
そんな中で、ネタバレ云々のマナーを説いても、心に響かないどころか、何のことか、理解もできないのが現状ではないでしょうか。
思えば、映画ブロガーが活況だった頃、人気のあるレビューサイトは、概ね、映画誌の手法を真似ていました。
文章を見れば、分かるんですよ。
ああ、この人も、学生時代から、映画誌『スクリーン』や『ロードショー』を読みまくり、淀川長治や荻昌弘みたいな映画コラムに憧れて、自分でブログを立ち上げたんだろうな、と。
彼らの先生は、本職の映画評論家であり、生え抜きの専門誌ですから、コンテンツ制作の要も心得ています。
「一足先にハリウッドで鑑賞した映画評論家」がそうであるように、彼らも核心に触れつつネタバレしない書き方を心得ていて、だからこそ、映画好きな訪問者も安心して閲覧することができたんですね。ついでに、著作権で揉めたという話も聞いたことがありません。
その点、現代の若いネットユーザーは、スマホを手にした時から、ネタバレサイトを当たり前のように閲覧し(というより、検索すると、それが上位に出てくる)、忖度しまくりの有名アカウントや売り上げ第一のランキングサイトしか目に入らないので、それが世界標準になっています。
インターネット老人会が、世間の顰蹙を買いつつも、匿名掲示板で盛り上がったように、現代の若いネットユーザーも、それが当たり前の感覚で利用しているのではないでしょうか。
悪い、悪いと説いて聞かせたところで、比較対象となる『良質なもの』を知らなければ、理解のしようがありません。
お手本となるようなものにリーチしにくい現状を考えれば、大人の言い分が空回りするのも仕方ないような気がします。
無駄に課金したくないネットユーザー
CD一枚、2500円。
レンタルビデオ、一本(新作)、500円。
音楽を聴くにも、映画を見るにも、とにかくお金が要った時代を知っている者からすれば、月額1000円~で見放題・聴き放題の現代のサブスクは夢のようですが、現代の若者の懐事情を考えれば、月額1000円でも、毎月払い続けるとなると、結構な負担です。
何故なら、現代は多くのネットサービスがサブスク方式であり、本当にネットを堪能しようと思ったら、月々1万円ぐらいは必要だからです。
音楽・動画配信サービスのみならず、Microsoftオフィス、オンラインストレージ、レンタルサーバー、漫画雑誌、Kindle、、、
一つ一つの月額は1000円程度でも、複数契約すれば、軽く1万円を超えるでしょう。
それに通信費も合わせれば、けっこうな額になります。
運営者にしてみれば、「月額500円も払えないのか!」とお怒りかもしれませんが、課金したいサービスは他にもたくさんあって、あれもこれも楽しもうと思ったら、どれかを諦めなければなりません。
その過程で抜道を見つけたら、みな、そこに殺到しますよね。
ネタバレサイトは、違法すれすれのところで、そうした需要を満たしているのだと思います。
「この映画面白そう。課金する価値があるのかな」
↓
「先に作品について調べよう。検索」
↓
ネタバレ・サイトにヒット。
↓
「自分の好みじゃない」
と事前に分かれば、無駄金を使って損することもないですし、時間も節約できます。
悪気があって、そうしているのではなく、今のネット環境では、それが当たり前になっていて、若いユーザーにとっては、数ある情報源の一つに過ぎません。
また、ネタバレ・サイトにアクセスした全ての人が、結末までがっつり目を通すかといえば、そうでもなく、中には作品名で検索したら、たまたまネタバレ・サイトにヒットして、あらすじだけ見て、離脱した……というケースも少なくないのではないでしょうか。
どのような動機でアクセスしようと、PVはPV、1PVとしてカウントされますから、検索結果の上位に表示されるほど、アクセスも集めやすくなります。
そして、アクセスが増えれば増えるほど、サイトも強くなるので、ますます上位表示されて、ユーザーの目に留まりやすくなります。
皆が皆、ネタバレを求めてアクセスするわけではなく、「情報源の一つとして」「たまたま」ヒットしてしまうケースも少なくないと思うんですね。
いずれにせよ、根っこにあるのは、「無駄に課金したくない」という強い動機であり、皆が純粋に映画の感想を求めて検索した前時代との大きな違いです。
先に結末を知りたい人々 ~小説を読む時も「あとがき」から
「映画を見る前に結末を知って、何が面白いのか」と不思議に感じる人もあるかもしれませんが、そういうファン層は一定数存在します。
当方も、その一人です。
私の場合、映画ではなく、文芸全般ですが、本を読む時は、必ず「あとがき」から読むし、本文より「あとがき」の方が心に残るケースもあります。
あらかじめ、作者や創作の背景を知っておかないと、楽しめないタイプなのです。
ミステリーも、あらかじめ犯人が分かっている作品しか読みません(横溝正史とか)
ミステリー作家にしてみたら、愕然とするかもしれませんが、そういう人間は一定数存在します。
謎解きが面白いと感じる読者がいる一方で、犯人が分からない状態がストレスになる人がいるのです。
なので、映画に関しても、「先に結末を知りたい」という人の気持ちも理解できます。
次に誰が死ぬか、ヒロインは助かるのか……みたいな、ハラハラドキドキがストレスなのです。
作品をじっくり楽しみたいからこそ、先に結末を知っておきたい。
そういう特殊な視聴者も存在することを理解した方がいいです。
皆が皆、ハラハラドキドキを楽しめるわけではありません。
稼ぎたいライター、儲けたいサイト運営者
ネタバレ・サイトやファスト動画などを積極的に利用する人の中には、エンタメ系の外部ライターも相当数含まれるのではないでしょうか。
きっちりした映画レビューを一本仕上げようと思ったら、視聴に2時間、下書きと校正に2時間~3時間はかかるものです。
専業ライターならともかく、副業で請け負っている場合、よほどの暇人でもない限り、毎日映画を見続けることは困難ですし、執筆時間も含めれば、かなりの負担です。
しかも、副業と呼べるほどの収入を得ようと思えば、週に一本、納品したぐらいでは、とても足りないでしょう。
昔の映画ブロガーみたいに、アクセスが有ろうが、なかろうが、ガリガリ記事を書きまくるようなオタクならともかく、「これなら私にも出来そう♪」なノリの外部ライターに、月10本以上のガチ映画レビューをこなせる気力と体力があるとは到底思えませんし、話題作ほど、他者のレビューと内容がかぶりやすくなります。(映画の見どころは大抵同じなので)
そうなると、要所だけかいつまんだネタバレ・サイトは、情報源として有り難いし、ファスト映画は尚更でしょう。(早送り視聴も含む)
また、サイト運営者にとっては、内容の良し悪しよりも、テンプレに添ったレビュー記事を大量投下する方が重要ですし、ライターがちゃんと視聴したか否かなど、気にも留めない所が大半ではないかと思います。
そうした双方の思惑が相成って、ますます、似たようなネタバレ・サイトが爆誕し、モラルもへったくれも無くなってきます。
また視聴者(サイト利用者)も、そうしたサイトばかりが目につくので、何の違和感も抱かなくなります。
そんな中、真っ当な意見を唱えても、誰も耳を貸さないし、「コンテンツをまるまるパクったわけでもないのに、何が悪いのか」ぐらいにしか思ってないでしょう。
でも、仕方ないですね。
稼げるヤツが一番偉いと詐欺行為を助長してきたのですから。
ネットは数こそ正義、
一つの手法が行き渡った後で正論を説いても、響きません。
文句があるなら、広告業者に言うべき
ネタバレ・サイトでも、ファスト動画でも、ネットで問題行為が散見された時、運営者に文句を言うより、広告業者に異議を申し立てる方が最適です。
問題サイトの大半は収益目的であり、儲けは広告業者からもたらされるからです。
広告業者が出稿を停止すれば、内容の是非にかかわらず、サイトは閉鎖されます。
外注やサーバー代にお金をかけて、一銭にもならないサイトを運営する意味など、どこにも無いからです。
Googleアドセンスみたいに、ちょっとエッチな画像をのせただけで、運営者に警告文が届き、広告が自動停止するような業者なら、いくら需要があっても、ここまで隆盛しないでしょう。
爆誕するのは、儲かるからで、収入になる仕組みがある限り、無くなりません。
サイト運営者のモラルばかり問題視されますが、それに便乗して、広告で稼いでいる業者が一番問題ではないでしょうか。
終わりに : 資金源を絶つ
いつの時代も、ネットは、課金を避けたい一般ユーザーと、その需要を嗅ぎつけて、いち早くサービスを展開する、小利口なサイト運営者を中心に回っています。
それがシェアウェアのように上手に機能することもあれば、サブスクみたいに新しいコンテンツ供給のシステムを生み出すこともあり、一概に人の欲求が悪とは言い切れません。
欲求は需要を生み、需要は創造に繋がるからです。
ネタバレ・サイトにしても、「ネタをばらすから、売れない」のではなく、元々、何事にも課金したくないユーザーが圧倒多数で、そういう人たちは、ネタバレの有無にかかわらず、アマプラも契約しないし、音楽配信のSpotifyなども馬鹿らしいと思ってる、とにかく、無料で、そこそこに楽しめたらそれでいい、ぼーっとTVをつけっぱなしにしている、お茶の間の視聴者と似たようなものじゃないかと感じること、しきりです。(漫画になると、もう少し複雑になりますが)
かといって、何のこだわりもないわけではなく、映画館に行けばきちんと代金を払うし、CDも正規の店で購入する。
多くの人は、いたって普通の常識人です。
なのに、なぜ、ネット上のコンテンツに対しては、そこまで課金を忌避するのか、それはもう、実体のない電脳世界だから、としか言いようがないです。
普通の人は、対価に見合うモノを通して、対象物の価値を実感しますから、サブスクの音楽とか、見放題の映画とか、物体(ディスク)が手もとに残らない物に対して、いまいちお金を払う気が無い(欺されたように感じる)のは、当然の心理と思います。
私もしばしばKindle版の本を購入しますが、紙の本に比べて、「欺された感」は否めません。
同じ作品であっても、どうしようもない軽さを、デジタルコンテンツには感じてしまいます。
検索したり、マーカーを引いたりは便利だけど、「だ・か・ら?」
そこに紙の本と同じ価値を感じろと言われても、どこか無理があるんですね。
真剣に制作しているものにしたら、ネタバレ・サイトで満足して、月額たった500円のアマプラさえ忌避するなど、許しがたい暴挙に見えるかもしれませんが、元々、ネット民とはそういうもの。
無料だから、読むし、視聴する。
それ以上のものでも、それ以下のものでもありません。
作り手にとっては、デジタルコンテンツも、形のあるディスクも、作品の重みは同じかもしれませんが、視聴者にしてみたら、デジタルコンテンツは「無料の延長」であり、受け止め方も大きく違います。
その温度差がある限り、どれほど作品の価値や制作者の手間を説いて聞かせても、絶対理解されないし、いくらでも抜道を作って、逃げ回ると思うですね。
それは制作者から見れば、悲劇的な状況ですが、だからといって、何の救いもないわけではありません。
ネタバレ・サイトを開設しても、一銭にもならないと分かれば、悪意をもった人間も、9割は止めるでしょう。
お金になるから、やる。
その収入は、誰から得ているのか。
それを考えれば、諸悪の根源も一目瞭然でしょう。
悪の源泉を放置して、次々に湧いて出てくるボウフラを片っ端から叩いても、撲滅には至りません。
むしろ、悪の源泉は、ぶくぶくに発酵し、ネットの土壌を腐らせるだけです。
ネットユーザーのモラルを問うより、資金源を断ち切る努力をした方が、問題解決も速やかに運ぶのではないでしょうか。