優しさは真似できない ~永久不変の価値とは 宮崎駿の『風の谷のナウシカ』

優しさは真似できない ~永久不変の価値とは 宮崎駿の『風の谷のナウシカ』
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宮崎駿の『風の谷のナウシカ』

作品の概要

風の谷のナウシカ(1984年)

監督 : 宮崎駿
音楽 : 久石譲
声の主演 : 島本須美(ナウシカ)、松田洋治(アスベル)、納谷悟朗(ユパ)、榊原良子(クシャナ)

風の谷のナウシカ [DVD]
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あらすじ
1000年前――『火の七日間』と呼ばれる最終戦争により、地上の文明は崩壊し、大地は「瘴気(しょうき)」と呼ばれる毒ガスを発する『腐海(ふかい)』に覆われる。そこでは『王蟲(オーム)』と呼ばれる巨大な昆虫が棲息し、わずかな土地に生き残る人々を脅かしていた。
「風の谷」の王女ナウシカは、村人たちの心の支えであったが、ある時、大国トルメキアの大型輸送船が不時着し、巨人型の破壊兵器「巨神兵」の胚を見つけたことから、争いに巻き込まれていく。トルメキアの軍司令官・クシャナ皇女は、巨神兵を使って、腐海を焼き払おうとしていたのだ。
捕虜となったナウシカは、仲間の協力を得て脱出を図るが、トルメキアに対抗するベジテ市の兵士が、王蟲の群れにトルメキア軍を襲わせるために、囮となる王蟲の子供を吊り下げて、運ぶ途中であった。このままでは王蟲の怒りによって、世界は二度壊滅する。
果たしてナウシカは王蟲の群れを止め、両国に平和をもたらすことができるのか――。

優しさは真似できない ~永遠の魅力

大人になってから、やっと良さが分かる作品がある。

『風の谷のナウシカ』もその一つだ。

ルパン三世 カリオストロの城』がそうであるように、『風の谷のナウシカ』も、よくあるファミリー・アニメの一つであり、世間の高評価とは裏腹に、私はほとんど関心がなかったし、『天空のラピュタ』も『もののけ姫』も、「ほのぼのとした話だなぁ」ぐらいの感想しかなくて、特に強い思い入れもなかった。

何故なら、80年代は、漫画もアニメも百花繚乱の時代。ナウシカ以外にも、マクロス、ボトムズ、銀河鉄道999、スペース・コブラと、すごいSFアニメが目白押しだったし、SF以外でも、北斗の拳、キャッツアイ、魁! 男塾、F(エフ)、TV版ルパン三世と、面白い作品が次から次に放送されて、どれを見ようか、選択に迷うほど。

当時のアニメファンにとっては、『風の谷のナウシカ』も、“ワン・オブ・ゼム”に過ぎず、「いい作品」だけど、それと同レベルのものなら、他にもいくらでもあるよ、みたいな感じで、「日本の至宝」「ありがたい」と崇め奉るほどではなかったのである。

しかし、昭和も過ぎ、平成も終わりの頃になると、ナウシカの良さがじわじわと胸に染みるようになり、「宮崎駿って、こんな素晴らしいアニメを作ってたんだ」とようやく気がついた次第。(カリオストロやラピュタも同様)。

恐らく、10代の頃より、中年になった今の方が、よほど感動するし、価値も分かる。

そう考えれば、マクロスや銀河鉄道999とは異なる所に、本作の魅力があるのだと思う。

それは何かと問われたら、『優しさ』だろう。

人に対する優しさ、自然に対する優しさ、命に対する優しさ、社会に対する優しさ。

ナウシカをはじめ、宮境アニメには、優しさが溢れている。

それは、満員電車の中で腰の悪いおばあさんに席を譲ってあげる、マナーや親切とは異なる。

いわば、全人類医に対する愛、宗教的に喩えれば、神の愛である。

優しさを描いた作品といえば、魔女っ子アニメの主人公がそうだし、北斗の拳のケンシロウや魁! 男塾の剣桃太郎も、優しいといえば優しい。

だが、宮崎アニメに漂う優しさは、キャラクターがキャラクターに対して抱く、恋人的な優しさとは異なる。

観る者に対して、業界に対して、技術に対して、全方位的に広がっている。

そして、「優しさ」は、誰にも真似できない。

だから唯一無二の作品として心に残るのだ。

もちろん、宮崎氏にそれだけの意図があったかどうか分からないが、一つだけ、これだけは言える。

宮崎氏の視点は、己ではなく、世界に向かって開かれているということ。

「オレの世界観を見てくれ」と、独りよがりな価値観をゴリゴリと押しつける、昨今の作品とは異なる。

万物共通、永久不変の真理に向かって、ためらいもなく、恥じらうこともなく、「愛こそ全て」とストレートに訴えかける純粋さがある。

そして、それが、結果的には、時代を超えて支持される。

『フランダースの犬』や『アルプスの少女ハイジ』がそうであるように、名作の心髄を踏襲しているのが、ナウシカの最大の持ち味だと思う。

現代のCGバリバリの高級アニメを見慣れた世代には、ナウシカも抹香臭い印象があるだろうが、今の流行ものは世界から忘れ去られても、ナウシカやラピュタはいつまでも世界のスタンダードであり続けるだろう。

何故なら、「家族全員(小さな子供も含めて)が安心して見られる」という、アニメの王道中の王道を堂々と行く作品だからだ。

いろいろ手を変え、品を変え、新たな映像や世界観をひねり出しても、人間の心というのは、結局、そこに行き着く。

何故なら、それゆえに人間社会も、人間らしく保たれてきたからだ。

一時期、派手なアクションに目を奪われても、いつか疲れて、人は原点に回帰する。

スターウォーズの旧三部作がそうであるように、日本アニメと言えば、10年先も、20年先も、宮崎駿の「ナウシカ」と言われ続けるだろう。

宮崎氏をはじめ、ナウシカ当時のスタッフが本当にすごい点は、人間社会の、永久不変の「優しさ」を一直線に求めたことではないだろうか。

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久石譲のサウンドトラックはSpotifyで視聴できます。

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正しい意見は人を安心させるが、魂までは救いません。 正しいことしか言えない人は、実は何も分かってないのでしょう。 私たちは人間の負の面を知り、寄り添うことによって、初めて人間として完成します。 光がこの世の全てではないのです。

この記事を書いた人

MOKOのアバター MOKO 著者

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。アニメから古典文学まで幅広く親しむ雑色系。科学と文芸が融合した新感覚のSF小説を手がけています。看護師として医療機関に勤務後、東欧に移住。石田朋子。
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