海洋小説 MORGENROOD -曙光 海とレアメタルの本格SF小説

【74】 海中で集鉱機と揚鉱管を繋ぐ ~歪みセンサー(ストレインセンサー)の概要と取り付け作業

【解説】 ROV(水中無人機)を使った接続作業

ROV(有策無人機)を使った海中の接続作業は、主に石油リグなどで盛んに行われています。

海中で、ボルトの取り付けやスイッチの調整、ケーブルのつなぎ替えなど、細かな機械作業を行うには、複合ケーブル(アンビリカブルケーブル)で遠隔操作を行う小型のROVが重宝します。

ライザーパイプと歪みセンサー

歪みセンサーは、『ストレインセンサー strain sensor』『ひずみゲージ』とも呼ばれます。

潮流、波力、腐蝕など、物理的な影響によって、金属製の部品が折れたり、曲がったりするのを検知する装置です。

大水深に設置されるライザーパイプ(本作では『揚鉱管』)も、潮流や水圧など、大きな圧力がかかるため、鋼製の管でも歪みが生じることがあります。

こうした異常を検知し、洋上のオペレーターに伝えるのが、『歪みセンサー』(ストレインセンサー)の役割です。

基本原理については、『大水深ライザーシステムの安全性に関する研究(海上技術安全研究所報告)』が参考になります。

※ 現在、この記事は削除されている為、『海上技術安全研究所』の公式サイトを参照して下さい。私が個人的に保存した資料はこちらです。マーカー入ってます。
https://www.evernote.com/l/AT4D4im_n0ZKlJl-GYFxkjlkCGTlJcmRxHo/

石油リグの歪みセンサー

石油リグの業界では、様々な高機能センサーが開発されています。

イメージは一例です。

Saipem awards BMT pre-salt riser monitoring contract
ライザーパイプの歪みセンサー

イメージは、『SUBSEA UK』のROV Deployable Dinamic Cuvature Sensor to Monitor Fatigue in Subsea Pipelinesの製品資料です。

洋上施設のパイプラインにインストールするセンサーのイメージです。

石油リグ パイプライン用の歪みセンサー

数百メートルから数千メートルにおよぶライザーパイプを海中に設置した場合、潮流、水圧、波による洋上施設の揺れなど、多方向から巨大な圧力を受ける為、ライザーパイプのモニタリングが欠かせません。万一、パイプが破損したり、海底で引きずられるような形になると、洋上施設にも多大な影響を及ぼし、非常に危険な状態になるからです。

歪みセンサーとライザーパイプの使用例

こちらは柔軟性に優れた、巻き付け型のセンサーです。

巻き付け型 歪みセンサー

原理としては、下図のようになります。

フレキシブルホースと集鉱機の接続

フレキシブルホース(揚鉱管の先端部)と集鉱機の接続は下図を参照。

集鉱機(Collecting Machine)の後部から、フレキシブルホース(蛇腹で柔軟) → 揚鉱管(鋼製のライザーパイプ)を伝って、破砕された海底の堆積物(鉱物)が洋上施設に揚鉱されます。

集鉱機とフレキシブルホースの接続

海底鉱物資源の採鉱の模様は動画のイメージです。

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<h2>採鉱システムと歪みセンサーについて

本作に登場する採鉱システムは、Nautilus Minerals社のプロダクションモデルにしています。

Nautilus Minerals社の採鉱システム

『歪みセンサー』とは、潮流、波力、腐食など、物理的な影響によって、金属製の部品が曲がったり、折れたりするのを検知する装置です。

『ストレインセンサー strain sensor』『ひずみゲージ』とも呼ばれます。

オペレーションの模様はこちらを参考にして下さい。

【小説】 海中で集鉱機と揚鉱管を繋ぐ

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【小説】 海中で集鉱機と揚鉱管を繋ぐ

集鉱機とフレキシブルホースの接続

○ 【73】 愛する女は最新式の高速艇に乗せるもの  ~恋のさや当て / 潜水艇の耐圧殻にての続きです。

一時間後。

プロテウスが水深3000メートルの目標位置に到達すると、マードックから連絡が入った。

「現在、集鉱機の位置はプロテウスから西に100メートルほどだ」

「フレキシブルホースの先端は?」 

「集鉱機の前方3メートルだ。ほとんど横並びになっている」

「OK。では、このままもう少し前進する」

程なくプロテウスのメインモニターにフレキシブルホースの先端、集鉱機、プロテウスの位置関係を示す三次元マップが現れた。音響データからリアルタイムで作成されたイメージ画像だ。さらに80メートルほど前進すると、右モニターにプロテウスの音響ビデオカメラが捉えた集鉱機のイメージが映し出された。

「集鉱機の背面がかなり左に向いている。もう少し左回りして、背面をこちらに向けてくれないか」

「OK。調整するよ」

オペレーション室の集鉱機オペレーターがアンビリカブルケーブルを通じて海上から遠隔操作すると、集鉱機はのっそり左に旋回し、ポジションを整えた。

だが、前から予測していたように、採鉱区全体が約一〇度傾斜している為、集鉱機も前方が少し持ち上がるような体勢になっている。だが、これ以上、機体を調整しても完全に水平になることはないだろう。 

続いて《ルサルカ》を遠隔操作するノエ・ラルーシュから連絡が入り、

「こちらもプロテウスと集鉱機を捉えた。これから接近して投光器を向けるから、それを目標に前進してくれ」

「了解。あと10メートル、前に移動する」

そうしてプロテウスが集鉱機の背面から10メートル手前まで接近すると、そのほぼ真上に《ルサルカ》の強力なLEDライトが見えた。ライトが照らし出すわずかな視界に、集鉱機の白い背面と、機体後部に接続されたアンビリカブルケーブルがはっきり目視できる。

ヴァルターはエイドリアンの方に向き、

「今から《クアトロ》を発進させる。俺がコントローラーでプロテウスを集鉱機の左サイドに保持するから、お前の方で《クアトロ》を集鉱機まで接近させろ。集鉱機のアンビリカブルケーブルに絡まないよう、気を付けてな」

「了解」

ヴァルターはエイドリアンと操縦席を変わると、レバーコントローラーと数種類のボタンが付いたコントローラーを持ってカーペットに腰を下ろした。左の覗き窓と操縦席のメインモニターで外の様子を確認しながら集鉱機の左側面に回り込み、集鉱機と同じ高さに位置を保ちながらホバリングする。

エイドリアンは《クアトロ》のコンソールを操作し、プロテウスの前方に取り付けられたランチャーから発進させた。ケーブルに繋がれた40センチ四方の無人機が小さなスラスタを回転させながら、そろそろと海中を進んで行くのが見える。

《クアトロ》にはソナートラッキング機能があり、ソナーが捉えた目標物までの距離と方位を自動的に算出して、前進操作だけで目標物に接近することができる。またコンソールを神経質にいじらなくても、機体を常に水平に保ち、同じ深度を維持する自動操縦支援機能も備わっており、その点では「大学生でも出来る」というのは本当だ。

「もう一度、対象物の位置を確認しよう」マードックが呼びかける。

「フレキシブルホースの先端は集鉱機の真上、10メートルの位置にある。これから揚鉱管全体を11メートル下げるから、先端を捉えたら合図してくれ」

タワーデリックから再び揚鉱管がゆっくりと海中に降下され、ちょうど10メートル下がった時、「見えました!」とエイドリアンが叫んだ。

《クアトロ》の水中カメラが、フレキシブルホースの先端に取り付けられた直径30センチの重錘式コネクターをはっきり捉えている。

管制室で見守るリズも、モニターに銀のコネクターがユラユラ映し出されると、ぎゅっと両手を握りしめた。

「僕も《ルサルカ》のカメラで確認した。集鉱機の接続部に届きそうか」

マードックが呼びかけると、エイドリアンは呼吸を整え、

「やってみます」と小声だが、確かな口調で返事した。

フレキシブルホースは柔軟性に富んだ特殊樹脂で作られ、等間隔でジャバラが施されているため、白と蛍光イエローのまだらのウミヘビのように見える。

直径30センチのコネクターはプラグ型、集鉱機の接続口はソケット型になっており、両側の接合パーツが組み合わさると、自動的にロックダウンされる。

エイドリアンは《クアトロ》をもう3メートルほど前に進め、マニピュレータの両側アームをいっぱいに伸ばすと、コネクターの上部に取り付けられたU字型のフックをグリッパでキャッチした。

全長9メートル、幅6メートルの集鉱機は《クアトロ》のカメラに収まりきらないが、何重にも入り組んだ配管やポンプユニット、プロテクト・ケージに守られた油圧装置、大小様々なスイッチと計器が配された配電盤が暗い水の中に浮かび上がって見える。そして、重機の真上には金属フランジの接続口。直径はフレキシブルホースのコネクターより一回り大きい36センチだ。

エイドリアンはグリッパでコネクターを把持しながら徐々に《クアトロ》の深度を下げ、両者の距離が50センチまで近づいた。

「接続する前に、もう一度接続口を確認しろ。たまに異物や堆積物が被っていることがある」

マードックの指示を受け、ヴァルターもモニターに目を凝らして凹型の接続口を確認するが、特に異常は見られない。

「よし、接合していいぞ」

マードックからGOサインが出ると、エイドリアンはさらにコネクターの先端を近づけ、ゆっくりアームを降ろした。それと同時に向かい合ったフランジが重なり、一見、凹凸が噛み合ったような感じだが、まだ完全に接合していない。

「少し右に回すような感じで、もう一度、ムーブダウンしてみろ」

マードックが助言すると、エイドリアンはコネクターの先端を20センチほど持ち上げ、再び接続口に近づけて、少し右に回すような感じで凹部に押し込んだ。

すると接続面が上手く噛み合ったのか、かちりと音を立てるように金属円盤が回転し、コネクターの先端が自動的に10センチほど内側に引き込まれた。動作が完了すると、金属フランジのグリーンランプが点灯した。

「いいぞ。接続はOKだ。次にT型ピンを抜いて、安全装置を解除しろ」

T型ピンは大人の拳ほどの大きさで、金属フランジの後方20センチほど離れた所に差し込まれている。エイドリアンは再びマニピュレータのアームを伸ばし、T型ピンの頭を掴むと、縦向きに回転し、ピンを抜き取った。

「よし、次はダイヤル式スイッチを『CLOSE』から『OPEN』に回せ」

再びアームを伸ばし、T型ピンの右側にある掌ほどのダイヤルを掴むと、『OPEN』に切り替えた。

「パーフェクトだ、エイドリアン。これで揚鉱管は繋がったぞ」

マードックがねぎらうと、エイドリアンも顔をほころばせた。

歪みセンサーの取り付け

続いて、水中リフトポンプに『歪みセンサー』を取り付ける作業だ。

プロテウスは160メートルほど上昇し、それ以降は海底に戻ることはない。

「ちょっと《クアトロ》の操縦を変わってくれないか」

ヴァルターがエイドリアンに声をかけると、エイドリアンは黙って操縦席を代わり、「何をするんですか」と聞いた。

彼は答えず、《クアトロ》を降下すると、海底面の50センチほど上をゆっくり曳航した。

まだ採掘が始まっていない海台クラストは、ごつごつした沈殿物のように辺り一面を覆っている。ステラマリスの海にもマンガンクラストや、コバルトリッチクラストのように、レアメタルを豊富に含むクラスト状の堆積物が世界各地で確認されているが、この海台クラストは「何百万年とかけて堆積した」というより、高熱でどろどろになった物質が一気に冷えて固まったような印象を受ける。だが、それなら、横幅600キロメートルにも及ぶ巨大な海台を広範に覆うほど存在するだろうか。それに心なしか銀をちりばめたような金属光沢があるような――あれがニムロディウムなのか? おまけに微細な堆積物がえらく白っぽい。まるでチョークの粉を一面に散らしたみたいだ。

「わからん……」

彼は我知らずつぶやき、《クアトロ》のモニターに顔を近づけた。

「どうやったら、こんなクラストができるんだ。それにこの白さは何だ?」

学術的にこれほど貴重なものを目前にして、機械の接続だけとは残念だ。サンプルを採取して詳しく調べてみたいが、その機会も訪れるかどうか。MIGはともかく、この価値に気付かぬトリヴィア政府はまったく暗愚としか言い様がない。

十分後、プロテウスはいったん《クアトロ》をランチャーに回収した後、ゆっくり上昇し、《ルサルカ》の照らす光源の下で水中リフトポンプを目視した。

リフトポンプは十二個の球状チャンバーからなるハイドロモーターで、横幅5メートル、縦2.5メートル、高さ2メートルの格子型メタルフレームの中に前後六個ずつ並んでいる。空中重量は120トン、プラットフォームに設置された注水ポンプの作用により、一分間に15立方メートルの泥漿を組み上げる力がある。

最初に《ルサルカ》が至近距離まで接近し、揚鉱管と水中ポンプのトランジション・ジョイント、ポンプ本体、ポンプ底部とフレキシブルホースを繋ぐコネクターの状態を水中カメラで確認する。

「目視でも、計器の上でも、特に異常はないようだ。そちらに問題がなければ、ストレインセンサー(歪み感知器)の取り付けを開始していいぞ」

ストレインセンサーは揚鉱管にかかる異常な圧力や衝撃を検知するスティック状の装置で、揚鉱管とリフトポンプのトラジション・ジョイントの上部に取り付ける。揚鉱管の歪み、膨張、振動、温度以上などを検知することで機械の変形・破損、システムダウンといった深刻なダメージを回避するのが目的だ。海中に降下してからセンサーを取り付けるのは、パイプが目標の深度に到達し、海中に静止した状態でインストールしなければ感知器がダメージを受けやすいからだ。

「ノエ、《ルサルカ》の投光器をストレインセンサーにフォーカスしてくれ」

《ルサルカ》が1メートルほど上昇し、右上方から投光器を向けると、あらかじめ揚鉱管に取り付けられている黄色いスチール製のプロテクト・ケージがはっきり目視できた。

ケージの長さは約90センチの円筒形で、四本のスチールパイプに守られている。

ヴァルターはプロテウスを7メートル手前まで近づけると、エイドリアンにプロテウスのコントローラーを手渡し、

「このまま船体を保持してくれ。今度は障害物がないから、それほど神経質にならなくていい」と指示した。

ヴァルターは操縦を変わると、ランチャーから《クアトロ》を発進した。

《クアトロ》がプロテクト・ケージの前まで接近すると、まず左のアームでスチールパイプの真ん中を掴み、機体を固定する。それから右のアームを機体の下方に伸ばし、工具バスケットから黄色いインストールボックスを取り出す。このボックス型ツールの中に細長いセンサーが収納されており、揚鉱管のプロテクト・ケージの中に嵌め込んで、スイッチを入れれば完了だ。

インストールボックスの形状は真ん中が少しくびれていて、プロテクト・ケージの内側に取り付けられたプラスチック製のブロックとぴったり合うようになっている。彼はインストールボックスの上下を確認すると、型を合わせるようにプロテクト・ケージに嵌め込んだ。同時に、ストレインセンサーの上下に取り付けられたフランジボルトが揚鉱管の金具に合わさり、両者が一体化する。

さらに固定を完全にする為に、工具ボックスから六角形の細長いレンチを取り出すと、フランジボルトの六角形の凹みに差し込んだ。続いてグリッパの手首を右にフル回転し、フランジボルトを深く締め付けて行く。これでストレインセンサーが完全に揚鉱管に固定される。まずは上側。そして下側。

「いいぞ。後はインストールボックスを取り外すだけだ」

マードックが声を弾ませる。

インストールボックスの真ん中にはT型ツマミが取り付けられており、これをグリッパで掴んで左回転すると、ボックスだけが上蓋のように外れた。

四本の保護用スチールパイプの内側には、温度計のようなストレインセンサーだけが固定され、これで設置作業は完了だ。 

「あれほど大騒ぎして、十五分とかかってないじゃないか」

フーリエがからかう。

「だから何度も言っただろう、部品はでかいし、操作も単純だって」

「これでも、いつもの倍ほど緊張してる。まだ最後の瞬間まで分からない」 

ヴァルターは一息つくと、取り外したインストールボックスを工具ボックスに戻し、最後の準備に取りかかった。

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宇宙文明の根幹を成すレアメタルと海洋社会の覇権を懸けて水深3000メートルの深海に挑む。
リストラされた潜水艇パイロットが恋と仕事を通して再び生き道を得る人間ドラマです。
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