海洋小説 MORGENROOD -曙光 海とレアメタルの本格SF小説

ジークフリートの恋 ~臆病者には花嫁の目を醒ますことも、娶ることもできません
『ニーベルングの指環』より

第1章 運命と意思 ~ローエングリン・大堤防(3)

いつかまた素敵な天使に出会ったら、必ず名前を聞き出そう。今度はその白い翼を掴まえて、決して離さない。
たとえ相手が神の娘でも、火の山をくぐって、自分のものにしてみせる。

MORGENROOD -曙光
あらすじ
堤防管理に従事するグンターは人一倍熱心に働くが、周囲から浮き立ち、孤独感を感じている。そんな彼に歌劇『ジークフリート』の森の小鳥が優しくささやきかける。そして運河のほとりで出会ったものは……。
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ひとりぼっちの春と小鳥の歌

とはいえ、仕事は楽しいことばかりではない。

皆が皆、志を同じくするわけではなく、意見しても無視されたり、改革を求めても聞き入れられなかったり。中には「*19ドイツ犬(Duitse herder)」とあからさまに揶揄する人もあり、どれほど真摯に尽くしても、ネーデルラントでは所詮『よそ者』でしかない現実を思い知らされる。

あるいは、何事も軽く受け流せない、きちきちした性格が周りには窮屈に感じられるのか――。

そんなグンターの気苦労を知って、「あなたもそろそろお嫁さんをもらっては?いつまでも狭いアパートで一人暮らしは淋しいでしょう」と母は勧めるが、それも容易な話ではない。ハンサムなイメージばかりが先行して、本当の自分を見つめてくれる人など無いからだ。

これまで誰ともデートしなかったわけではないが、自分もなかなか心を開けないし、相手の女性もしまいに物足りなくなって、次第に疎遠になってしまう。遊びましょうと誘われても、何をして遊べばいいのか分からないし、ナイトクラブやスポーツバーでわいわいやるタイプでもない。口を開けば、アルプスの頑固爺みたいに堅苦しいと言われ、「あなたって、朝から晩まで哲学書みたいに小難しい事ばかり考えているの?」と呆れられたこともある。

昨年も同僚の紹介で気立てのいい女性と交際したが、話が合ったのは最初の数回だけ。「クラシック音楽も聴く」というからワーグナーの楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』に誘ったら、劇場の前で「何よ、これ。オペラじゃない!」。どうやら彼女はブロードウェイの人気歌手『リチャード・ワーナー』のガラコンサートと勘違いしたらしい。

それでも付き合いで観劇し、第一幕までは続いたが、第二幕になると彼女は舟漕ぎを始め、クライマックスの歌合戦、有名なヘルデンテノールが『朝は薔薇色に輝きて*20』を高らかに歌いあげる頃にはぐぅぐぅ寝息を立てていた。

その姿を横目で見ながら、やはり趣味の合わない人と心を通わせることはできないと痛感する。

ロックやサッカーなら広く共有できるかもしれないが、グンターの心の神はワーグナーだ。ドイツ哲学や古典文学についても、心ゆくまで語り合いたい。決して気取っているわけではなく、それが自身の核だからだ。でも、それを口にすると決まって言われる。「暗い、重い、糞真面目」と。僕はそんなに四角四面の石頭なのか。人類と世界の理想について語るのは、それほど恥ずかしいことなのか。

そんな時、決まって思い出すのが『大堤防の天使』だ。

ほんの二時間ほどだが、文学、人生、仕事、家族、いろんなテーマについて心から語り合った。「名前など知らない方がいい」という彼女の気持ちを尊重し、最後まで素性を尋ねることはなかったが、何故あの時、強引にでも名前を聞かなかったのか悔やまれる。まだハンデヴィットに住んでいるなら、自分から出向いてみようかとも思うが、「ジャーナリストになって社会問題を徹底的に追及したい」と熱っぽく語っていた彼女のこと、今も国境沿いの片田舎で、文庫本を相手におとなしく暮らしているとは到底思えない。

いつかまた素敵な天使に出会ったら、必ず名前を聞き出そう。今度はその白い翼を掴まえて、決して離さない。

たとえ相手が神の娘でも、火の山をくぐって、自分のものにしてみせる。

Die Braut gewinnt. Brunhild’ erweckt
Ein Feiger nie:
nur wer das Fuchten night kennt !

花嫁の目を覚ますことも、ブリュンヒルデを娶ることも
臆病者には出来ません。
出来る者は恐れを知らない者だけ! *21

運河の出会い ~名前を教えて

そんな一六九年の春のこと。

グンターはいつものようにフェーレの町中を流れる運河を見て回った。水位を確認し、排水設備の傷みが気になる箇所は写真を撮って、亀裂の大きさや深さを測定する。

チューリップが咲き揃うこの季節、遊覧船の乗り場も賑やかだ。川岸の屋台からは焼き菓子の甘い匂いが漂い、少し早めのハーリング(生ニシン)を売る店には小さな行列ができている。

グンターも仕事を忘れてのんびりしたいが、雪解けの水が増すこの季節、決して手抜きはできない。来年も皆の楽しそうな笑顔が見たいから、運河も堤防もしっかり見て回る。

治水の仕事も地味な確認作業の繰り返しだが、継続的にデータを取り続ければ、例年とは異なる水位、水質の変化、施設の老朽化など、細かな違いが見えてくる。それが即、水害に繋がるわけではないが、数百年に一度の豪雨や高潮はいつ訪れるかわからない。海面より低い干拓地にとって堤防や排水施設は社会の生命線だ。その時が来てからでは遅いのである。

午前中の仕事を終え、運河沿いの芝生に腰を下ろして休んでいると、二時間前に出航した遊覧船が戻って来た。フェール塩湖を周遊する小さな屋形船で、遠方からの観光客に人気がある。屋形船が船着き場に横付けになると、カップルや家族連れが笑いさざめきながら降り立ち、跳ね橋をバックに自撮りしたり、屋台のストロープワッフルを買い求めたり、それぞれの春を楽しんだ。

一方、グンターは森ではぐれたジークフリートみたいに川面を見つめ、自分だけが異国でぽつねんと浮いているように感じる。同僚やサッカーのチームメイトとはその時々を楽しく過ごしているが、誰かと胸襟を開いて語り合うこともなければ、魂が触れ合うような経験もない。

自分に魅力がないのか、まだ運命の人に出会っていないだけなのか。小鳥に尋ねても、ワーグナーのオペラみたいに答えてはくれない。

だが、今日の空の美しさはどうだろう。抜けるように高く澄み渡り、心の底まで洗われるようだ。こんな春の日には、何か素敵な事が待ち受けているに違いない――。

と、その時。

ボカッと子供の蹴ったゴムボールが後頭部を直撃し、瞬く間に運河に転がり落ちた。

背後で母親の叫ぶ声がし、二歳ぐらいの男の子がボールを追って水際に駆け寄る。

母親は慌てて我が子を抱き上げたが、男の子は両手を広げて「ボーゥ、ボーゥ」と泣き叫ぶ。

グンターはすぐさま水辺に寄り、ボールに手を伸ばしたが、意外と水の流れが速く、どんどん岸から遠ざかっていく。

仕方なく靴を脱ぎ、作業ズボンを膝まで折り上げ、まだ冷たい水の中に入った。

二歩、三歩と前に進み、もう一歩、大きく踏み込むと、ようやくボールに手が届いた。

岸辺に戻り、男の子に手渡すと、男の子は嬉しそうに笑い、母親は何度も礼を言いながらその場を立ち去った。

グンターも水から上がり、芝生に腰を下ろしたが、ズボンの裾が濡れて、冷えた足先がずきずき疼く。擦っても、叩いても、裾はぐっしょり濡れたまま、春の日差しでは到底乾きそうにない。

(まいったな……これからまだ仕事なのに)

深い溜め息をつき、湿った足に靴下を履こうとした時、グンターはふと視線を感じ、そちらを見やった。

先ほどの屋形船に次の乗客が三十名ほど乗り込み、出航を今か今かと待っている。船尾には、ダークブラウンの髪をシニヨンに結った清楚な女性が腰掛け、じっとグンターを見つめていた。年嵩の女性に付き添われ、親指姫みたいに座席に収まっているが、瞳は大きく見開かれ、今にも空に飛び立ちそうだ。遠目にも分かるほど雅やかな顔立ちをして、格の高さが覗われるが、口元は砂糖菓子みたいに甘やかで、そこだけ優しい花が咲いたみたいだ。

グンターと目が合うと、彼女は慌てて顔を伏せたが、すぐにまた視線を寄越すと、ぽっと頬を赤らめた。その仕草が小鳥のように可愛いので、グンターはもう少し近くで見たいと思い、運河を調べる振りをして、ゆっくり屋形船に近寄った。

そうして船尾の二メートル手前まで来ると、突然、彼女が面食らったように目を見開き、くすくす忍び笑いした。

何事かと自分の足元を見ると、なんと裸足だ。

グンターは慌ててさっきの場所に戻ると、急いで靴下を履き、足先を靴に突っ込んだ。

そうこうするうち出航を告げるベルが鳴り、屋形船がエンジンをスタートさせる。

「Warten! (待って) Wacht alstublieft ! (どうか、待ってくれ)」

靴紐も結ぶのも忘れ、全力でダッシュした。

次に天使に出会ったら、必ず名前を聞き出すと心に誓った。

そして、今度こそ、その白い翼を掴まえて離さない。

グンターは「治水局だ!」と叫びながら、船員に身振り手振りで合図した。船員も公の仕事と勘違いし、慌ててエンジンを止めた。グンターは屋形船に飛び乗ると、不安そうに顔を見合わせる乗客の間をぬって、真っ直ぐ彼女の方に歩いていった。

彼女は最後部の席で身をすくめ、怯えるように彼の顔を見上げている。

その典雅で麗しいこと!

瞳はラファエロの描くマドンナのように優しいアーモンド色で、こぼれるような唇が彩りを添えている。少し青ざめた表情が稚い顔立ちをいっそう際立たせ、生まれたての春の妖精みたいだ。

グンターは白いヘルメットを脱ぐと、彼女の足元にひざまずき、まずは非礼を詫びた。

「驚かせてすみません、でも、どうしても、あなたのお名前を伺いたかったのです」

彼女は目を見開き、星のような睫毛を震わせている。

「いつか天使に出会ったら、名前だけでも記憶したいと心に決めていました。あなたがお嫌でなければ、その貴い名前だけでも教えていただけませんか」

だが、彼女は小さく首を振るだけで、一言も返そうとしない。

というより、こちらの言っていることが全く解ってないようだ。

もしやドイツの同胞か。

今度は丁寧なドイツ語で同じ事を口にしたが、やはり彼女は俯いたままだ。

そのうち周りの客がクスクス笑いを始め、彼も耳の付け根まで赤くなった。

どうにもこうにも引っ込みがつかず、ヘルメットを小脇に抱えたまま固まっていると、彼女が軽く上体を傾け、流暢な英語で話しかけた。

「ヘルメットの騎士さん、どうか船を出航させて下さい。皆さんが待ちかねておられます」

彼がはっと顔を上げると、彼女はアーモンド色の瞳を細め、

「私の名前はアンヌ=マリー。マルセイユから来ました」

とシルクのような声で答えた。

「では、フランスの……」

歓喜は一瞬で飛び去った。フランスの観光客では手の中に留めようがない……。

「もう一度、貴女にお目にかかることはできますか」

グンターは思いきって尋ねたが、付き添いの女性が身を乗り出し、彼を追い払おうとした。だが、彼女はそれを目で制すると、「今夜はフィンステルベルクのサッセン邸に居ます」と答え、それきり石のように口をつぐんでしまった。

グンターは改めて彼女と周りの人々に深謝すると、力なく船を降りた。

船は行ってしまったが、彼女の花のような面影と『アンヌ=マリー』という名前が胸に焼き付いて離れない。いつかはフランスに帰ると分かっても、もう一度会いたい――いや、会わねばならぬという強い思いが胸の奥から突き上げてくる。

臆病者には花嫁の目を醒ますことも、娶ることもできません

その夜、仕事を終えてアパートに戻ると、グンターは意を決して彼女を訪ねることにした。

せめて昼間の非礼を詫び、旅の無事を祈りたい。

彼は一番上等なスーツに着替え、両手いっぱいに花束を買い求めると、ベルギー国境に近いフィンステルベルクに向かった。

フィンステルベルクはアントウェルペンの北の郊外に広がる別荘地だ。緑が美しく、低地のネーデルラントには珍しく標高もある。見晴らしがいいことから密かな高級住宅地として開け、名だたる資産家や有名人が数千万ユーロもする豪邸を構えていると聞く。

グンターは人気のない道路をとぼとぼ歩きながら、なんと浮き世離れした街かと目を見張った。木々の向こうに見え隠れする建物は、『家』というよりホテルか離宮だ。住まいは何棟にも及び、プールやテニスコートもある。

そのくせ辺りはしんと静まり返り、人っ子一人見かけない。街灯や鉄柵に施されたセキュリティカメラが番犬のように目を光らせ、ここに住まう人々の特殊な身分を思わせる。

そうして立派な門構えの家を幾つも通り過ぎ、宅地の奥まで来た時、目の前にドンとそびえる大邸宅にグンターは目を見張った。

『Sassen(サッセン)』。

真鍮の正門を飾る鷲のレリーフに見覚えがある。

もしや世界中に営業拠点をもつメガバンクのオーナー一族か――。

彼女がサッセン家の人なら、僕など到底相手にされるわけがない。

さっきまでの高揚とした気分も沈み、微かな希望も潰えた。

そんな彼の腕の中で、花束が囁きかける。

「この綺麗な花々を無駄にするつもり?」

花束は慣れないながらも一所懸命に選んだものだ。店仕舞いを始めた花屋に飛び込み、ありったけのピンクのバラとチューリップを清楚な雰囲気にアレンジしてもらった。

迷うグンターの耳にワーグナーの小鳥が囁きかける。

《花嫁の目を覚ますことも、ブリュンヒルデを娶ることも、臆病者には出来ません。出来る者は恐れを知らない者だけ!》

彼は深呼吸し、呼び鈴を鳴らすと、幸運が振り向いてくれるのを待った。

程なく黒いスーツに身を包んだ中年の禿げ頭が姿を現し、ぎょろりとグンターを見下ろした。

「アンヌ=マリーさんに取り次いで頂けませんか」

「今夜は誰も中に通すことはできない」

禿げ頭はギービヒ家のハーゲン*22みたいに彼の前に立ちはだかった。

「では、せめて花束だけでも……」

ピンクの花束に英語で綴った謝罪のカードを添えて差し出すと、禿げ頭は黙って受け取り、屋敷に戻っていった。

それから小一時間。

四月とはいえ、夜はまだ凍えるように寒い。春の冷気が足元から這い上がり、氷の手で撫でるように体温を奪っていく。

近くでカサッと葉の鳴る音がし、一瞬、彼女かと首を伸ばすが、虫の跳ねる音だ。辺りは深い闇に包まれ、月明かりだけがしんしんと降り注いでいる。

それとは対照的に、屋敷の窓には煌々と明かりが灯り、豪奢なシャンデリアの下で身分の高い人々が笑いさざめく様子が目に浮かぶ。彼女は花束を受け取ってくれただろうか。そもそも禿げ頭は取り次いでくれたのか、外からは何一つ窺い知ることはできない。固く閉ざされた真鍮の門の前で木偶の坊みたいに立ち尽くしながら、甘やかな彼女の名前を胸の中で繰り返すばかりだ。

やがて二階の窓の明かりが消え、庭園のライトも落ちると、グンターはとうとう夜の冷気と閑寂に耐えかね、門の前から離れた。

せめて一目会いたかったが、サッセン家の人では如何ともしがたい。せっかく知り得た名前をただの一度も口にすることなく、また自身を名乗ることもなく、永久に別れてゆかねばならないとは、なんと無情な定めなのか。

何度も立ち止まり、振り返りしながら、来た道を引き返そうとした時、「待って」と鈴のような声が聞こえた。

驚き、振り返ると、ローズピンクのカクテルドレスを着たアンヌ=マリーが門の向こうに立っている。ドレスは目も眩むような高級サテン地で、胸元にはグンターが見たこともないような大粒のピンクダイヤモンドが輝いていた。

恐れと緊張にグンターが棒立ちになると、彼女は優しい微笑を浮かべ、

「美しい花をありがとうございます。すぐに御礼に伺いたかったのですが、お客さまの話が長引き、なかなか場を離れることができませんでした」

と流暢な英語で話した。

グンターは彼女に歩み寄ると、

「僕の方こそ、わざわざ出向いて頂いて恐縮です。レディとは知らず、無礼を致しました」

「どうぞ気になさらないで下さい。私の方こそ、冷たくあしらってしまいました」

「あなたを怖がらせたことは心底からすまなく思っています。でも、どうしても、あなたの名前を尋ねずにいませんでした」

「どうしてですの?」

「名前を知れば、あなたのことをいつまでも憶えていられる。『Le Petit Prince(星の王子さま)』の赤いバラみたいに、僕にとって世界でたった一つの花になるからです。そして、あなたも僕の名前を知って下されば、僕もあなたにとって名前をもった存在になる。――いえ、あなたに忘れ去られてもいいのです。ほんの一瞬でも、あなたにとって特別な存在になれるなら」

「あなたの名前は何と仰るの?」

「Gunther(グンター) Vogel(フォーゲル)」

「ギュンタ?」

「いえ。グとギの間です。『グ』の口で『ギ』と発音します。でも英語で発音する時は『グ』で構いません」

グンターが大真面目に答えると、彼女は可笑しそうに頬を緩め、

「実直でいらっしゃるのね。運河に男の子のボールが落ちた時も、一所懸命に拾っておられたわ。なんと心の優しい方かと感心しながら見ていましたの。それに、ここまでいらっしゃるなんて大変な勇気だわ」

「あなたのお顔を見る為なら、火の山だって越えてみせます」

「まあ、火の山なんて大変……!そんなにお気遣い下さらなくても、呼べばいつでも参りますわ。ただ少し、思うに任せぬだけで」

「あなたさえよければ、もう一度、ゆっくりお話しできませんか?この近くにチューリップの美しい公園があります。ワッフルの美味しい屋台や海の見えるレストランも」

「でも……」

「いつかマルセイユに戻られるとしても、一日だけ僕に下さい。あなたの声と笑顔を胸に焼き付けたい。そして、それが最後になっても、悔いはありません」

アンヌ=マリーは躊躇したが、意を決したように頷くと、彼の誘いに応じた。

次の日曜日、本当に来てくれるだろうかと一抹の不安を感じながら待ち合わせ場所に行くと、十分ほど遅れて彼女がやって来た。小さな花模様のサロペットスカートにオフホワイトのニットアンサンブルを合わせて。

彼が腕を差し出すと、彼女は花のように寄り添い、二人はゆっくり運河沿いを歩き出した。

それが新たな人生の第一歩だった。

*21) ワーグナー楽劇『ジークフリート』第二幕に登場する小鳥の歌。黄金の指輪を隠し持つ大蛇ファーフナー(巨人の変わり身)を打ち倒したジークフリートは、その血を舐めたことで小鳥の鳴き声が解るようになる。オペラ対訳ライブラリー『ニーベルングの指輪(下)』高辻知義(訳) 音楽之友社

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