海洋小説 MORGENROOD -曙光 海とレアメタルの本格SF小説

【75】 採鉱システムの接続ミッション ~水中ポンプと高電圧リアクターについて

【解説】 水中ポンプと高電圧リアクターについて

揚鉱管と水中ポンプの仕組み

本作に登場する採鉱システムはNautilus Minerals社の採鉱システムをモデルにしています。

採鉱システムの要である水中ポンプとリアクターは、Nautilus Minerals社のプランでは『RALS & SSLP -Riser and Lifting System & Subsea Slurry and Lift Pump』と呼ばれています。

揚鉱管(ライザーパイプ)の内部に環流を作り出し、海底で採掘されたスラリー状の鉱物を洋上の採鉱プラットフォーム(Nautilus Minerals社のプランでは支援船)に揚収します。

採鉱システムの水中ポンプ Liser and Lift System

ポンプのサイズは、5.2m X 6.4m X 3.7m high 

採鉱システム全体の動きは動画のイメージです。

Nautilus Minerals社のPDF資料はこちら。275Pに及ぶ冊子なので、モバイルの方はご注意下さい。
Offshore Production System Definition and Cost Study
現在、ネットから削除されている為、閲覧のみです。

リアクターなどは当方の創作です。

海中でのROV(有索無人機)のオペレーション

海中での水中無人機の動作は、石油リグでのオペレーションをイメージしています。

NEXXUS ROV | Oceaneering

実際の作業の模様はこちら。

視界は暗く、水も濁って、CGアニメより動きはスローです。

魚が邪魔しに来ることもあります。

Millenium Rov work and highlights

潜水艇から小型のROVをランチャーするのは、タイタニック号の撮影で有名な深海調査船『Alvin』(アメリカ・ウッズホール海洋研究所)がモデルです。
ジェームズ・キャメロンの映画『タイタニック』の冒頭、小型ROVが沈没した船内に進入し、内部の様子を撮影する場面が印象的でした。

下記の動画は、タイタニックの探査を行う冒頭のシーンとジェームズ・キャメロンのインタビューが収録されています。

深海調査船 Alvin と水中無人機ROVをどのように連携したか、分かりやすく描かれていますので、参考にどうぞ。
※ 映画の演出が含まれるため、実際のオペレーションとは若干異なります。

James Cameron discusses the 3D re-release of Titanic.

採鉱システムと接続ミッションについて

本作に登場する採鉱システムは、Nautilus Minerals社のプロダクションモデルにしています。

Nautilus Minerals社の採鉱システム

海底で採掘した鉱物を洋上のプラットフォームに揚収する為の水中ポンプはこちら。(高電圧リアクターが付属)

採鉱システムの水中ポンプ

水中無人機による機械操作は下図のようなイメージです。

ROVによる機械操作
BOP Running and testing.av

【小説】 高電圧リアクターの起動と採鉱システムの稼働へ

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(ページ数 10P)

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【小説】 高電圧リアクターの起動と採鉱システムの稼働へ

高電圧リアクターの設置

>> 【74】 海中で集鉱機と揚鉱管を繋ぐ ~歪みセンサー(ストレインセンサー)の概要と取り付け作業の続きです。

「あとは高電圧リアクターだけだ。いくつかケーブルの繋ぎ替えがあるから、慎重にな。こちらで主電源をONにしない限り通電しないから安心しろ」

マードックは励ますように言ったが、そうと分かっても落ち着かぬものだ。

彼はエイドリアンの方を向き、

「さて、どうする。ゴールはお前が決めるか?」

「どちらでも。あなたがヒーローになりたければ、どうぞ」

「やるのか、やらないのか」

「そっちこそ、やれないのか、やりたくないのか、どっちです?」

「分かった。お前がやれ」

するとエイドリアンはぶつくさ言いながら操縦席を替わり、彼はプロテウスのコントローラーを手にしてカーペットに腰を下ろした。

「ノエ、今からエイドリアンが接続するから、高電圧リアクターに投光器を向けてくれ」

《ルサルカ》は2メートルほど降下し、高電圧リアクターを照らした。

リアクターは高さ3メートル、一辺1.8メートルの黄色いメタルフレームから構成され、底部は特殊なコネクターによって水中ポンプと連結されている。また正面と背面には金属製の配電盤が取り付けられ、大小様々なスイッチ、ケーブル、計器が備わっている。

機械の設定はすでにプラットフォームで完了している為、海中で必要な作業は三本のケーブルの繋ぎ替えと、三つのダイヤルスイッチをONにするだけだ。

マードックに指示されて、エイドリアンが《クアトロ》を3メートルほど降下し、高電圧リアクターの操作盤に向かおうとした時、「右下のスラスタがおかしい」と異変に気付いた。エイドリアンは何度もスイッチを切り替え、キーボードから別のコマンドを送ってみるが、スラスタの回転が不安定で、すぐに停止してしまう。その他の方法も試したが、コントローラーのディスプレイにスラスタの電気系統の異常を告げるメッセージが表示されると、エイドリアンはヴァルターの方を振り返り、「どうします?」と不安そうに訊いた。

「残りのスラスタだけで上手く移動できないか」

「……やってみます」

エイドリアンは残り三つのスラスタを使って前進を試みるが、機体はどうしても右に旋回し、思うように移動できない。ヴァルターが操縦を代わり、もう一度、前進を試みるが、やはり《クアトロ》はバランスを欠いたように右に傾いてしまう。

ノエはマイクの向こうで軽く舌打ちし、

「水中で静止できなければ接続作業は無理だ。片方のアームでセンサーを把持できても、接続作業には両腕が要る。無理にスラスタを回し続けると、別の電気系統を損なう恐れがある」

「代わりに《ルサルカ》を使えないか?」

「無理だ。アームが一本しかないし、マニピュレータのグリッパの形状が違う。ケーブルの繋ぎ替えみたいな細かな作業には向かない」

ノエが万策尽きたように答えると、横からマードックが呼びかけた。

「ヴァルター。無理なら戻ってこい。リアクターの設定なら、明日《ヴォージャ》を使ってできないこともない」

「だが、揚鉱管と集鉱機を繋いだ状態で一日放置するのも心配だろう。それに《ヴォージャ》は有索だ。オペレーションもケーブルエンジンを使って大がかりになる。今日中にやっちまおう」

「どうやって?」

「プロテウスのマニピュレータで後ろから《クアトロ》を把持する」

「そんな無茶な」

「無茶じゃない。プロテウスのアームの最大リーチは1.8メートルだ。持ち上げ力も二五〇キロある。《クアトロ》も上部と後部の二つのメインスラスタは正常に回転して、全く自力で動けないわけじゃない。二十分くらいなら《クアトロ》を海中で把持できる」

「プロテウスごとリフトポンプに衝突しないか」

「俺は水深五800メートルの岩陰で新種のエビを捕まえたことがある。十二本足のクモみたいなやつだ。水深4000メートルの熱水噴出孔で熱水の採取もしたし、高さ3メートルの堆積物の間をくぐり抜けてサンプリングもした。40センチ四方の無人機をマニピュレータで支えるぐらい、どうってことない」

「じゃあ、出来るところまでやってみよう」

マードックが承認すると、管制室ではダグとガーフィールドが顔を見合わせ、「これでシステムを破壊したら、あいつは一生ここでタダ働きだ」と肩をすぼめて笑った。

リズは不安げに父の顔を見つめ、

「パパ、これは一体、どういうことなの。無人機が故障したのに、まだ作業を続けるの?」

「そうみたいだね」

「そんな。まるで他人事みたいに……」

「パイロットが『出来る』と言ってるんだ。黙って見てなさい」

「でも……」

「彼がエイドリアンを道連れにするような真似をすると思うかね?」

再び父に制され、リズは黙って椅子に座り直した。

父は冷淡なほど落ち着きを払い、微動だにしない。

それが信頼なのか、リーダーとしての構えなのか、リズには分からない。

ケーブルのつなぎ替え

一方、耐圧殻では、リズ以上に不安な顔でエイドリアンがプロテウスのコントローラーを手にしている。

「いいか、さっき説明した通りだ。俺がプロテウスのマニピュレータで《クアトロ》の背部を把持するから、その状態のままプロテウスを定位置に保て。俺が合図したら、すぐに操縦席に着いて、お前は《クアトロ》の操作に専念するんだ。プロテウスが揚鉱管まで十分に接近したら、《クアトロ》のアームをいっぱいに伸ばして、ケーブルを繋ぎ替えろ」

「そんなこと、本当に可能なんですか。下手すればプロテウスごとリアクターに衝突しますよ」

「2メートル近づいたぐらいで衝突するなら、俺はこれまでに百回ぐらい死んでる」

「でも……」

「いいから、《クアトロ》に集中しろ。ちょっとプロテウスの鼻先をぶつけたぐらいで死にはしない」

彼はプロテウスをゆっくり《クアトロ》に近づけると、マニピュレータのアームを最大限に伸ばし、海中で右に左に揺れている《クアトロ》のメタルフレームをがっちり掴んだ。

「このまま高電圧リアクターに接近する。ノエ、《ルサルカ》の投光器を配電盤にフォーカスしてくれ」

《ルサルカ》が少し上昇し、配電盤に光を当てると、黄色いメタルフレームに守られたリアクター本体と、正面に取り付けられた配電盤が見えた。

配電盤の中央には、蛍光イエローの極太ケーブルが一本、一回り細い白ケーブルが二本、ループ状に固定され、ケーブルの先端には十本のピンプラグが備わっている。このピンプラグをリフトポンプ正面の分電盤に差し込み、ダイヤル式スイッチを『OFF』から『ON』に切り替えれば完了だ。

プロテウスがギリギリいっぱいリアクターに接近すると、

「エイドリアン、操縦席を変われ。《クアトロ》の操作に集中しろ」

二人はすみやかに席を入れ替わり、ヴァルターは床に腰を下ろした。

エイドリアンは《クアトロ》のコンソールに向かうと、マニピュレータの左アームを伸ばし、配電盤の左サイドに取り付けられた取っ手を掴んだ。

「いいぞ。最初に蛍光イエローのメインケーブルの先端プラグを固定ソケットから取り外し、分電盤に繋ぎ替えろ」

マードックが指示すると、エイドリアンはメインケーブルの先端プラグを配電盤のソケットから取り外した。プラグは十本ピンの付いた円筒型で、大きさは直径7センチある。

同時に、ヴァルターはプロテウスの位置を数十センチ下げ、《クアトロ》のアームがリフトポンプの分電盤に届くよう調整した。分電盤にも二十個以上の小さな部品が取り付けられているが、メインケーブルのコンセントは蛍光イエローに塗色され、十個の差し込み口があるので分かりやすい。

エイドリアンがアームをいっぱいに伸ばしてプラグを差し込むと、自動的にロックがかかり、グリーンランプが点灯した。

「よし、いいぞ。次は二本の白ケーブルだ。それぞれプラグの形状が異なるから、差し込み口を誤ることはない。今と同じ要領で落ち着いてやれ」

マードックが励ますと、ヴァルターは再びプロテウスを僅かに上昇させ、リアクターの配電盤に戻った。

エイドリアンは先と同じ要領で右側の白ケーブルを取り外すと、リフトポンプの分電盤に差し込もうとしたが、白ケーブルはピンが五つで、プラグも一回り小さい。少し手間取った後、どうにかプラグを挿入すると、「あと一つだ。がんばれ」とヴァルターも励ました。

再びプロテウスを数十センチほど上昇し、先と同じ要領で《クアトロ》が配電盤の取っ手を掴もうとした時、今度は右上部のスラスタも停止し、機体が右に大きく傾いた。

「慌てるな、エイドリアン。この際、左のスラスタも完全に停止しろ」

「でも、プロテウスのマニピュレータで支えきれないでしょう」

「大丈夫だ。機体には浮力材が備わっているし、中性浮力の作用で水中重量もほぼゼロだ。プロテウスのマニピュレータで十分に把持できる」

エイドリアンが全てのスラスタを停止すると機体は安定したが、さすがに神経を消耗したのか、操縦席で何度も目を擦り、溜め息をついている。

「少し休憩するか?」

エイドリアンは小さく頷き、コントローラーから手を離した。

「……すみません」

「謝ることはないさ。何かにつけ予定外のことは起きるもんだ。ここまで良くやった。あと一つ替わってやりたいが、お前には《クアトロ》を把持したままプロテウスを定位置に保つのは無理だろうから、もう一踏ん張りしろ。この調子なら、あと十五分もかからない」

エイドリアンはふーっと息をつくと、「あと一つですね」と自分に言い聞かせた。だが、その一つが果てしなく感じられる。

コンソールの方を向いたまま、「どうして前の会社を辞めたんですか」と訊いた。

「辞めたんじゃない。辞めさせられたんだ」

「そうでしたね……」

「何故そんなことを聞く」

「いえ……これほどの技術があるのに、どうして解雇されたのかと……」

「それなら俺の方が理由を聞きたい」

「でも、解雇になって良かったじゃないですか。おかげで理事長と知り合い、ミス・マクダエルにも会えた」

彼は答えず、じっと覗き窓の外を見つめている。

ただ一つ確かなのは、あと一本のケーブル接続で大勢の夢が叶うということだ。

「気持ちは落ち着いたか?」

「ええ、少し」

「じゃあ、最後の一本に取りかかろう」

幸運の右手 ~潜水艇のアクロバット

エイドリアンが操縦席に座り直すと、ヴァルターも身体の向きを変え、プロテウスの位置を微調整した。

エイドリアンは再びコントローラーを手にすると、レバーを慎重に動かしながら《クアトロ》のアームを伸ばし、配電盤の取っ手を掴んだ。それから先端プラグを取り外し、分電盤に移動する。

あと、もう一息。

コンセントの五つの差し込み口に合わせてプラグを差し込む。

だが、グリーンランプはつかない。

「もう一度、ゆっくり、やり直せ」

エイドリアンはいったんプラグを抜き取ると、再びコンセントに差し込んだ。今度はぐっと押し込み、少し右に回す。

するとグリーンランプが点灯し、これで三本のケーブルが繋がった。

最後は背面の配電盤に回り、三つのダイヤルスイッチを『ON』に切り替え、メインのレバースイッチを引き下げるだけだ。

初めに《ルサルカ》がリアクターの背面に周り、投光器で作業野を照らす。

続いてヴァルターが《クアトロ》を把持したまま背面に移動し、エイドリアンが操作しやすいよう、プロテウスをぎりぎりいっぱいまで近づける。

エイドリアンは左のアームを伸ばし、直径7センチのダイヤルを一つ、二つ、切り替えていった。

そして、三つ目も無事に切り替えると、全部署で感嘆の声が上がり、「あとはレバーを引くだけですね」とエイドリアンも安堵したように答えた。

レバースイッチは飛行機のスロットルレバーのような形状で、二本の軸とT型の取っ手から構成される。取っ手の長さは20センチあり、《クアトロ》のグリッパで余裕で掴める。これをいっぱいに押し下げるだけだ。

エイドリアンは左のグリッパでT型の取っ手を掴むと、一気に押し下げようとした。

ところが、レバーが動かない。

何度やっても関節が錆び付いたように固定されている。

「どうなってるんです?」

エイドリアンが不安そうにつぶやくと、マードックが「もう少し強く押し込むように引いてみろ」とアドバイスした。

「押し込むように? どうやって」

「だから、言葉通りだよ」

エイドリアンはもう一度、試みたが、やはりレバーが降りない。

オペレーションルームでも計器を調べたが、特に異常は見られない。

「俺がやってみようか?」

「でも、どうやって? あなたがプロテウスのコントローラーから手を離したら、どうやって操縦するんです?」

「プロテウスのマニピュレータを使う」

「そんな。下手すれば衝突しますよ」

「時速100キロで?」

「……」

「メインパイロットになって間もない頃、海底の堆積物を採ろうとしてプロテウスの鼻先を岩盤にぶつけたことがある。あの時は死んだと思ったが、どうってことなかった。お前も免許取り立ての頃、ガレージの壁に車をぶつけた経験があるだろう。だが、徐行していればバンパーが凹むだけだ。プロテウスも同じだよ。全速でぶつかっても、せいぜいカメラが傷んでフーリエが泣くぐらいだ。どうってことない」

「本当ですか?」

「俺を信じろ」

エイドリアンは操縦席を替わると、膝を抱えて床に座った。

ヴァルターはメインの操縦席で素早くコンソールを操作し、いったん《クアトロ》をプロテウスのランチャーに揚収すると、わずかにプロテウスを前進して、右のアームを伸ばした。「幸運の右手」だ。

プロテウスとリアクターの距離は1.5メートルほど。サンプリングの時はいつもこんなものだ。ぶつかりはしない。

彼はグリッパでT型の取っ手を掴むと、ゆっくり押し下げた。

少し引っ掛かるような感触はあるが、異常というより固定金具がきつく締まりすぎている様子だ。

彼はもう一度、右のアームを押し下げた。

幸運の右手だ。

彼女のやさしい手の感触を思い出した瞬間、錆び付いたようなレバーが一気に下がり、グリーンランプが点灯した。

同時に各部署から拍手と歓声が上がり、

「よくやった、ヴァルター。もう一度、リアクターとリフトポンプを目視して、異常がなければすぐに上がってこい」

マードックの弾むような声が聞こえた。

ヴァルターは床に座り込むエイドリアンを見やり、「終わったぞ」と優しく声をかけたが、エイドリアンはすっかり放心したように覗き窓の外を見つめている。

やがてフーリエから浮上の指示が出ると、ヴァルターはリアクターとリフトポンプの周りをゆっくり旋回しながら異常がないか確認し、これで本当に完了したことを実感しながら浮上の準備に入った。

潜水艇から見える風景を目に焼き付けて

「お前にもう一つ、重要なミッションがある」

「……なんですか?」

「弁当を完食しろ」

「今、そんな気分じゃないです。なんだか胸がいっぱいで……」

「情けない奴だ。俺に偉そうに説教して、自分は食わないつもりか。弁当を残して帰ったら、ミス・マクダエルがどれほど悲しむか」

「でも……」

「俺は全部食う。お前も半分は食べろ」

エイドリアンはしぶしぶランチボックスを開くと、小エビのピラフを一口、口にしたが、疲労と緊張で胃がもたれ、まったく食が進まない。

彼もプロテウスが浮上を始めるとギンガムチェックの袋を開き、保温容器のパッキンを開いた。もわっとしたケチャップの匂いに一瞬胸がつかえたが、ミートボールにフォークを突き刺すと、一気に完食した。

エイドリアンはぽそぽそと口元を動かしながら、「もうこれでお終いなんですね」と再び覗き窓の外を見やった。

「深海がどんなものか、しっかり目に焼き付けておくといい。誰も経験できない事を成し遂げたんだ。俺も最初は無茶に感じたが、お前の将来を考えたら、これで良かったのかもしれない」

「……僕もそう思います」

「きっかけを与えてくれたミス・マクダエルに感謝しないとな」

「そうですね」

「ところで食は進んでいるか?」

「まだ三分の二ほど残ってます」

「半分は食べろよ」

「……分かってます」

深度は2000メートル。あと四十分ほどで海上に帰り着く。

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海洋小説 MORGENROOD -曙光

宇宙文明の根幹を成すレアメタルと海洋社会の覇権を懸けて水深3000メートルの深海に挑む。
リストラされた潜水艇パイロットが恋と仕事を通して再び生き道を得る人間ドラマです。
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