失恋した時、どうするか ~拒絶の中でも、学ぶ者は学ぶ

この投稿は、海洋科学、鉱業、建築・土木をテーマにしたフィクションです。詳しくは作品詳細をご参照下さい。


STORY
互いの境遇を語り合ううちに、二人は絆を深め、リズは恋心を告白するが、ヴァルターの態度は素っ気ない。訳が分からず、失恋したと落ち込むが、そんな娘に父親のアルは「拒絶の中でも学ぶ者は学ぶ」と諭す。
目次

【恋愛コラム】 恋愛指南より文芸を勧める訳

世の中には様々な恋愛指南が溢れています。

こうしたら、もっと彼氏に愛されるとか、理想の男性と結婚できるとか。

しかし、方法論は方法論であって、パソコンの説明書きみたいに、100パーセント確実な結果がもたらされるわけではありません。

人によっては当てはまらないケースもごまんと存在しますし、恋愛指南を説く人も、たまたまそのやり方で成功しただけであって、全ては結果論なんですね。いろんな異性とお付き合いしたからこそ人を見る目が養われ、幸せになった女性が存在する反面、親や周囲のすすめる人と無難に結婚したからこそ、平凡でも確かな幸福が手に入った人がいるように、その道筋も、価値観も、十人十色で、どれが正解というのはありません。遊んで幸せを掴んだ人は自由恋愛を謳うし、堅実にきた人は保守的な考え方をするし、そもそも、人間関係の構築に、「絶対コレ」という処方箋は無いのですよ。皆、心をもった人間であり、二人が置かれる環境も、どんどん変わっていくのが当たり前なのですから(金銭的にも、社会的にも)

ハウツーにすがってしまうのは、多分、不安が強く、自信もないからでしょう。

理由を知ろうとして、あるいは、自分の思う通りに状況を変えようとして、いろんなハウツー本を読み漁ってしまう気持ちも理解できます。

だからといって、物事を自分の思う通りに操作し、相手を従わせようとすれば、それこそ永久に信頼を失いかねません。

どんなに辛くても、訳が分からなくても、一所懸命に相手の気持ちを考え、自分の態度を省み、正すべきところは素直に正す以外、愛を繋ぐ方法など無いような気がします。

それより、恋について語った詩や、神話や物語を読む方が、うんと糧になると思います。何故なら、そこには恋する心も、愚かさも、全て書いてあるからです。

ハウツー本みたいに、「こうすれば彼に愛される」という直截的な表現はありませんが、愚かなヒロインも、嘆くヒロインも、みな、あなたの現し身です。

その姿を客観的に見つめることで、自分の過ちにも気づくでしょう。

これらは人類が何千年と悩み、語り尽くしてきたことです。

本当に正論があるのなら、失恋して自殺する人も、結婚できずに悩む人も、とおの昔になくなっていると思います。

【小説の概要】 恋のフライング

採鉱プラットフォームの接続ミッションを前に、ヴァルターとリズは互いの境遇を語り合い、絆を深めていくが、リズがついつい好意を口にしたところ、思いがけない返事が返ってくる。

男性経験の乏しいリズは、彼の素っ気ない態度に慌てふためき、失恋したと落ち込むが――。

あんなに優しくて、心も開いてくれたように見えたのに、何が悪かったのか分からない。好きだけど距離を置くって、どういうこと?

考えても、考えても、納得いく答えなど出てこない。あの夜、ウミガメの赤ちゃんについて話してくれた優しさは偽りだったのか。

その時、デッキテラスで「アイスクリームが出来たよ」と父が呼んだ。目尻を拭って、テラスに戻ると、ラタンのカフェテーブルに銀器のデザート皿が二つ、仲よく並んでいる。だが、皿にのってるのは、茶色ともピンクともつかない、へんてこなアイスクリームだ。

「これ、なあに?」

「アイスクリームだよ」

「パパが盛りつけたの?」

「おかしいかね」

「だって、バニラとチョコレートとストロベリーがぐちゃぐちゃに混ざってるわ」

「一つのパッケージに三つの味が一緒に入っているんだから、しょうがない。せっかく作ったのに、見た目が悪いと文句を言うんだね」

「ごめんなさい。でも、なんだか可笑しくて」

「お前が子供の頃は、もっと素直に喜んでくれたよ。口の周りにホイップクリームを付けて、二度、三度とお代わりをねだった」

「今は可愛くない?」

「そうだね、少し理屈っぽくなった」

「……」

「お前も頭でいろいろ考えすぎじゃないかね」

アルは銀器を手に取ると、リラックスチェアにごろりと寝そべった。

「小さな商談でも、最初のリアクションはたいがい『様子見』だ。どれほど旨味のある話でも、興味丸出しに食いつく者はない。もっともらしい理由を付けて、『一考させて頂きます』と距離を置くのが普通だ。採算は取れるのか、将来性はどうか、検討すべきことは山のようにある。その間に相手の出方が変わることもあるし、こちらの見方が変わることもある。条件が好いからといって、今日明日に決断を下せるほど、単純なものではないよ。双方の抱えているものが大きければ尚更に。だから、インダストリアル社の営業部門に入職した者には、できるだけ早く営業的な仕事を体験させる。どれだけ言葉を尽くして、良質な製品を並べても、相手の条件に適わなければ一蹴される現実を知るためだ。だが、拒絶の中でも、学ぶ者は学ぶし、強くなる者はどんどん強くなる。それが十年後、二十年後に、突然報われたりするものだ。お前はどうだね、エリザベス。拒絶される度に取り乱して、それで終わりかね」

「……パパは反対しないの?」

「本気で反対するなら、有無を言わさずトリヴィアに帰している」

アルはぺろりとアイスクリームを平らげると、銀器をテーブルに置いた。

「お前に好い話がある。相手は有名な経営者の子息だ。勉強家でトップとしての器も備えている。興味があるなら、今からでも先方に連絡して、見合いの日取りを決めるが」

「だったら、パパが秘書に雇えばいいわ。それほど立派な方なら、私が添わなくても自力で頂点に上り詰めるでしょう。私は最初から恵まれた人より、運命の加護を必要とする人がいい。自分で何でも出来る人は、いずれ周りを顧みなくなって、私の後ろ髪もぶんぶん振り回すようになるわ。本当に助けが必要な人に手を差し伸べてこそ、『アル・マクダエルの娘』でしょう。それより、どうして気が変わったの? その理由を知りたいわ」

アルはしばらく宙を見つめていたが、

「人間の真の強さは何だと思うかね」

と問い返した。

「どんな困難にも負けない堅固な意思や、堂々と主張する勇気、一つの目標に向かって努力する気概……かしら」

「違うね。それは表面的な強さだ。表面的な強さは金属に似ている。一見頑丈に見えるが、真ん中で折れたら容易には戻らない。金属的な強さは人間を鍛えても、真の支えにはならないんだよ」

「それと私のお見合いと、どういう関係があるの?」

「正直、お前には無知なまま嫁いで欲しかった。世間も知らず、人間の裏表も知らず、天真爛漫なお嬢さんのまま、賢い男に嫁いで、雛鳥みたいに守られて生きていくのが一番幸せだと。だが、ある時を境に、お前も強くなって欲しいと願うようになった。お前も気丈な娘だが、やはりその強さは金属的だ。何かあれば真っ二つに折れて、人の倍ほど痛手を受ける。そうではなく、人生を芯から支える本物の強さを身に付けて欲しい。一生に一度は世間と深く関わって、魂が震えるような悦びや胸を引き裂かれるような悲痛を経験するのも有意義だ。ここに来てから春風みたいに浮かれたり、幼子みたいに落ち込んだり、朝に夕に溜め息をついては何かを掴もうとするお前の姿を見ていると、物を言う気も無くなった。それも案外、いいのではないかと」

「なんだか、パパの言葉とは思えないわ」

「シナリオが狂ったのは、わしも同様だ。こんなつもりじゃなかった」

「じゃあ、どの時点で変わったの?」

「それはお前自身が一番よく分かっているんじゃないかね」

リズは父の顔を見つめ、正直なところ、父は彼をどう評価しているのだろうと思った。社員としても、男性としてもだ。

だが、聞いたところで教えてくれるはずもなく、自分で見極めろと言うだろう。たとえ、その為に心が傷ついても。

「お前と彼が恋仲になっても、わしはとやかく言うつもりはないよ。あれもそれなりにいい男だ。本気で愛すると決めたら、お前のことも大事にしてくれるだろう。だが、そこに至るまでの道程は、多分長くて複雑だ。途中でお前がギブアップすることも十分にあり得る。だから、黙って見ているんだよ。彼がお前に誠実である限りはな。何にせよ、今回に関しては、わしは彼の味方だ。お前の立場、自分の仕事、真面目に考えれば迂闊に返事できなくて当たり前だ。デートやメールも差し控えたいのも、突き詰めれば、お前の為だよ。中途半端に期待をもたせて、やっぱり愛せないとなれば、その方がよほど残酷だろう」

「私はどうすればいいの?」

「それこそ自分で考えなさい。人生のあらゆる問題をわしが手助けしてやれるわけではないし、わしにも正解が分からぬこともある。考えて、考えて、考え抜いて、自分で選び取っていくしかない。時に過ち、傷ついても、それもまた人生だ。そして、本当に愛したら、憎いも悔しいもないだろう。じゃあ、わしは一足先に休ませてもらうよ。くれぐれも軽率な振る舞いはせんようにな」
アルはリラックスチェアから起き上がると、からりとリビングのガラス戸を開け、二階の寝室へと上がっていった。

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