悩み苦しみを他人に話すとかえって気が重くなる ~本当に俺の力になりたいなら

この投稿は小説【曙光】のボツ原稿や引用を元に作成しています。

海洋情報ネットワークの構築に向けて、ヴァルターとリズはヒアリングに奔走しますが、大規模な計画だけに、なかなか周囲の協力が得られません。

一方、故郷フェールダムの再建工事や示談の解消など、心を煩わせることも多く、集中力を削がれることもしばしばです。

そんなヴァルターの消沈を案じて、リズは「悩みがあるなら話して欲しい。話すだけでも楽になるはず」と優しく促しますが、二枚貝のヴァルターの返事は次の通り。

あれこれ世話を焼かれるより、そっとしておいて欲しいのです。

以下はボツ原稿。

(悩みがあるなら話して欲しい、というリズに対して)

「君に話すようなことじゃないよ」

「話すようなことじゃなくても、誰かに言うだけで心が安らぐこともあるわ」

「君はカウンセラーのようなことを言うね」

「そうじゃないわ。友人として言ってるの。あなたの力になりたいから……」

「俺、そんな風に言われたら、かえって傷つくよ。ああ、いよいよ俺も年下の女の子に同情されるぐらい落ちぶれたのか、って気分になる。本当に俺の力になりたいと思うなら、そっとしておいてくれるのが一番いい。今、俺は、誰にも、何も話したくない。まして、君相手に、悩み苦しみを打ち明けようなんて気持ちにはならない。信用するとか、しないとかの話じゃなく、これは俺の矜持の問題だ」

*

「君が優しい人だということはよく分かった。俺のことを心配してくれる気持ちも本物なんだろう。だから、気持ちだけ受け取っておくよ。でも、俺に何かしよう、力になろう、などと決して思わないでくれ」
第三章 海洋情報ネットワークより

仲間とワイワイ騒いだり、誰かに愚痴をこぼしたり、話を聞いてもらうだけで、気持ちが楽になるタイプの人には想像もつかないでしょうけど、世の中には、自分の悩みや苦しみを他人に話すと、かえって気が重くなる人もいます。それが近い相手なら、なおさらプレッシャー。

ヴァルターも決して格好つけているわけではなく、リズに話すとかえって気が重くなるんですね。いろんな意味で。

それを理解せず、「どうして話してくれないの? 私を信頼してないの?」と詰め寄ると、相手はますます心を閉ざして殻に閉じこもる。

人助けも相手によりけり、誰にでも優しく気遣えば救われる、というものでもないのです。

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