海が好きだから、必然的に人間が許せなくなる

この投稿は小説【曙光】のボツ原稿や引用を元に作成しています。

海が好きだから、人間が許せない訳

初期設定では、ヴァルター・フォーゲルはもっと陰鬱とした人間で、ひねくれたことばかり口にする、ろくでもない人間でしたが、二十数年の歳月を経て、やっとまともな人間に成長しました。初期の原稿を見ながらつくづく思うのは、小説というのは人生の最後に書くものだ、ということです^^;

以下、ヴァルターとリズの会話。

出会いの頃の一場面です。

彼はつぶやくと、その場にしゃがんで深緑色の水面を見つめ、

「この水、何も無いように見えるだろう。だが、完全に無色透明のものじゃない。ミクロの眼で覗けば、小さな生命があちこちに生きている。今、この瞬間にも、生まれたり死んだりしながら、種の生命を生きている。だが、人間が介在した瞬間に自然な営みは失われ、人間の都合の良いようにすべてが作り替えられる。その為に、多くの種が絶滅し、多くの種が危機にさらされてきた。そして、その弊害は、回り回って、すべて人間に跳ね返る。そのくせ人間は根本を正そうとしない。自分たちの作り出した膿に窒息し、命を枯らしているのさ」

「そんな風に言ったら、まるで人間を憎んでいるみたいだわ」

「俺は海が好きなんだ。だから必然的に人間が許せなくなる」

「共存はできないの」

「共存などあり得ないよ。人間はいつでも滅ぼす側だから」

「でも、生み出すこともあるわ」

「何を? 人間にとって都合の良いもの?」

「そうじゃなくて……真に創造的なものよ」

リズも彼の隣に腰を下ろすと、深緑色の水面を見つめ、

「『何か有る。有ると思って見れば、必ず何か見つかるものだ』──それがパパの口癖だったわ。だから、こんな水の底にも宝の山を見つけて、海と空しか無かった星に、あんな立派なインダストリアル・パークを築くことができたの。もちろん、その過程で、大勢の人々が亡くなった事実は深く心に刻まなければならないけれど、一方で救われた人もあるわ。失業してネンブロットの鉱山で途方に暮れていた人々には新しい仕事、活躍の場を無くして自分を持て余していた人達には新しい機会……全てが人間にとって悪く作用している訳じゃない。パパの起こした一切が間違いなら、アステリアの事業などとうに倒壊していると思うわ。世界にとって必要だから発展を続けているの。そして、パパがあなたを呼んだのは、流れの中の必然よ。多分、パパは、あなたの否定的なその眼が新しい創造に繋がることを期待してるのよ」

彼は鼻で笑ったが、リズは真摯な眼で彼の顔を見つめ、

「パパは、必要のない人間を拾ったりしないものよ」

「だったら、その必要性を、もっと具体的に説明してくれればいい。君のパパの言い方は、いつでも遠回しで、いつでも説教臭い。正直、何が言いたいのか俺にはさっぱり分からない。まるでヒントだけ並べて試されているような感じだ」

「それは、あなた自身で答えを見つけて欲しいからよ。パパはいつも言っているわ。『運命の女神は意地悪な顔で勇者を試す』って。パパは辛抱強く待っているのよ。あなたが自分の力で道を切り開く日を」

「だったら、俺はとうに落第生だな。文句は言うし、寝坊はするし、駄目な奴と思われているよ」

「そんなことはないわ。だって、あなたは海を知っているじゃないの。昨日もパパに聞いたわよ。一年のブランクがあったにもかかわらず、無事にローレシア沖の深海底の調査を終えて、きちんと報告書を提出したと。本当はパパも心配していたのよ。いくらベテランとはいえ、一年もブランクがあればミスが生じるのではないか、万一の事があったらどうしよう、と。だけど、あなたが無事にミッションを終えて帰ってきたので、とても安堵していたの。本当よ」

「だったら、正直にそう言えばいいじゃないか」

「パパは時々、素直じゃないの」

「どうりで・・・」

2000年1月 第六稿より

人間は歳月とともに変わるもの。当然、文章も

2000年の下書きに比べたら、ヴァルターの性格も大きく変わりました。

それは私自身が大きく変わったからです。

「変わらない」としたら、まだまだ年月が足りないからでしょう。

物理的な時間ではなく、心が感じる時間です。

人間も、人生も、とことん生きて、骨身に染みてからでないと分かりません。

でも、突き抜けたら、救いようのない陰キャらでも、味わい深いキャラクターに生まれ変わるものです。

ちなみに、「どうりで・・」の続きはありません。何を書こうとしていたのかも覚えていません(´ー`)

目次
閉じる