『運命のフォルトゥナ号』 ~宇宙文明の根幹を成すレアメタルと鉱物資源問題

海底鉱物資源とレアメタル ~Fortes fortuna adjuvat(運は勇敢な者たちを助ける)
記事について

この記事では、レアメタル(稀少金属)と政治・経済の関わり、金属のユニークな特性を動画を交えて紹介しています。目次をクリックすると、該当の箇所にジャンプします。

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【小説】 宇宙文明を支えるレアメタル ~海底鉱物資源を採掘せよ

第一章 運命と意思 ~フォルトゥナ号(1)
物語

宇宙世紀。みなみのうお座に打ち上げられた探査機が一つの鉱石を持ち帰る。そこから発見された新物質ニムロディウムによって科学技術は著しく発達し、宇宙開発も加速的に進むが、最大のニムロデ鉱山がファルコン・マイニング社の手にわたったことで、ファルコン・グループによる一党支配が始まる。
特殊鋼メーカー『MIGインダストリアル社』のカリスマ経営者アル・マクダエルは水深3000メートルの深海底に眠るレアメタル『ニムロディウム』を採掘すべく、愛機『フォルトゥナ号』を駆る。大企業の寡占に風穴を開けるべく、アルは海底鉱物資源の採鉱事業に乗り出す。

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海底鉱物資源について

『鉱物資源』とは何か

海底鉱物資源について理解する前に、まず『鉱物資源とは何か』について定義する必要があります。

海底鉱物資源—未利用レアメタルの探査と開発— (臼井朗)によると、

鉱物資源とは、私たちが「工業的に利用できる天然の岩石」と定義される。
海底鉱物資源—未利用レアメタルの探査と開発— (臼井朗)

たとえば、校庭の砂場に磁石を挿入すると、黒い砂鉄がくっついてくることがあります。砂鉄の主要な成分は磁鉄鉱(マグネタイト)やチタン鉄鉱(イルメナイト)ですから、学校の砂場にも鉱物が存在することになります。

しかし、子どもの磁石にくっついてくる程度のものを『鉱物資源』と呼ぶことはありません。

何故なら、校庭の砂場で採取できる砂鉄などたかが知れているからです。

一方、たたらNaviでも紹介されているように、川岸や海岸などに大量に堆積し、一日、数トンから数十トンという砂鉄を利用して、製錬することができれば、立派な製鉄業として成り立ちます。

その際、「砂鉄がたくさん存在する」というだけでは、製鉄業として成り立ちません。

大量の砂鉄を採取するだけの道具、人材、広々とした用地、物資の運搬に最適な道路や河川が不可欠ですし、上質な鉄を製錬する為の技術やノウハウ、またそれを指導できる高度技能者も必要です。なおかつ、製錬された鉄を、ビルや橋梁、自動車や飛行機といった形で大量に消費してくれる市場が無ければ、どれほど上質な鉄をこしらえても、在庫が余って、メーカーが損をするだけですし、いくら上質でも、人件費や輸送費にコストがかかって、1キロ=1000万円もするような鉄は、誰も買いません。

つまり、「鉱物資源」として成り立つには、「たくさん存在する」だけでは役に立たず、採掘、製錬、輸送、消費、これらが円滑に機能して初めて、資源としての価値を持ちます。

たとえ時価数百兆円といわれる鉱床が見つかっても、「山奥にあって、アクセスするだけでも大変」「地質調査したくても、いつ武装勢力に襲われるか分からない」「工場を建設するのに500人の従業員が必要だが、建築に詳しい人が誰もいない」では、資源としての価値は皆無です。

それに加えて、鉱物資源の存在する場所は、地球上でも限られています。

しかも、優良な鉱床は発展途上国や紛争地域に集中し、政治的問題もつきまといます。

にもかかわらず、世界的に生活レベルが向上するに伴い、鉱物資源――とりわけスマホやパソコン、電気自動車といった、高機能製品に不可欠なレアメタルの需要もうなぎ上りであることから、事態をいっそう複雑にしている訳ですね。

海底鉱物資源の取り組み

そうした流れから、日本でも海底鉱物資源に対する関心が高まっています。

世界屈指の火山国であり、地殻活動も活発な日本近海の海底には、豊富な鉱物資源が存在することが知られています。

海洋における鉱物資源の概要(資源エネルギー庁)でも紹介されているように、海底に存在する鉱物資源は、「マンガン団塊」「海底熱水鉱床」「コバルト・リッチ・クラスト」の三種類が有力視されています。

もし、これらを効率よく採鉱して、商業的に生産すること(製錬)が可能になれば、日本も他国からの輸入に全面的に依存するのではなく、自前で金属材料を調達することができますし、上手く行けば、資源輸入国から輸出国に転身することも夢ではありません。

海洋における鉱物資源の概要

海底熱水鉱床の調査海域
海底熱水鉱床開発計画にかかる第1期中間評価報告書より。

しかしながら、これを商業的に実現するには、様々なハードルをクリアしなければなりません。

その最たるものが、海洋技術です。「今成すか、永遠に行わないか ~Nunc aut numquam」にも書いているように、深海は超高圧の世界であり、地質調査するにも、手軽にドローンを飛ばすようなわけにいきません。それなりの航行能力を備えた支援船、これを運航するスタッフとノウハウ、超高圧に耐える調査機器や洋上施設の設計とオペレーション、安全かつ効率的な採鉱システムの開発、等々、技術的課題は山のようにあります。

本作で、表面積の実に97パーセントが海洋で占められたアステリアで、宇宙文明の礎となるレアメタル『ニムロディウム』が大量に見つかったにもかかわらず、手つかずのまま、何年も放置されてきたのはそういう理由です。

それはまた、技術問題にとどまらず、ニムロディウム市場を支配する巨大企業ファルコン・マイニング社との政治・経済問題でもあります。

果たして、アルの試みは成功し、一党支配に風穴を開けるのか。

そうした様々な側面を、潜水艇パイロットであるヴァルター・フォーゲルの視線を通して縦横に描くのが、本作の趣旨です。

有史以前、人類はまず固い岩石を道具や建材として利用しはじめ、つぎに土壌を陶器や土器の材料として使うことを学んだ。やがて、より高いエネルギーを使って素材に化学変化を与え、銅や鉄などの金属元素を選択的に使うようになった。

そして、現在では、利用している大半の金属元素は、もはや地球上に天然の化合物として存在しないものばかりとなっている。

たとえば、私たちが「ベースメタル」と呼んで大量に利用する鉄、アルミニウム、銅などの単体金属は、一般に地表にも地中にも天然物資としては存在しない。私たちは、金属酸化物などの化合物に別のエネルギーを加えることによって、「化学結合を引き離す」という人工的なプロセスによってこれらを作り出しているのである。

≪中略≫

さらに、現代の人類はあらゆる金属元素を利用するようになり、たとえば電子機器などに用いられるガリウム、インジウム、ニッケル、医療などに用いられるコバルト、バリウム、白金(プラチナ)などの稀少な金属元素も私たちの暮らしと密接に関わるようになってきた。これらはレアメタルと呼ばれ、不足や枯渇の恐れが大きくなってきている。

現在、人類が直面する地球規模の課題は、環境保全とエネルギー確保といわれている。一方で、鉱物資源の枯渇・不足については、生産効率や省エネ・リサイクル技術の向上によって対応可能であると思われがちである。しかし、物理学の基本法則に従えば、物質が不滅であると同時にエネルギーもまた不滅なのである。

つまり、鉱物資源のリサイクル率を極端に上げることや、高度な処理技術にのみ頼ることは、結局膨大なエネルギーを費やすことにほかならず、地球全体のマテリアルフローとしては決定的な解決策にはならない。

≪中略≫

鉱物資源には、目的物質を回収(採掘、選鉱、製錬過程)できる限界濃度(鉱石の品位)が存在し、その値に近づくにつれて、その処理コスト(負荷)は急激に増加する。

現在の大規模かつ高水準の生活・生産活動を維持するために、エネルギーのみならず、資源物質の持続的供給が必要なのである。

海底鉱物資源—未利用レアメタルの探査と開発— (臼井朗)

こうした理由を踏まえて、現在、様々な海洋機関や企業で採鉱システムのモデルが考案されています。

Nautilus Minerals社の採鉱システム 支援船

Auxiliary Miner ビートル型破砕機

参考 採鉱の完全自動化を目指す 深海の破砕機と集鉱機のオペレーション

レアメタルについて

レアメタルとは、次のように定義されます。

1) 岩石中の平均濃度がきわめて低いもの
2) 鉱石となる物質が稀である
3) 濃度が高くても抽出(分離)が困難なもの
4) 用途・特性も不明なもの
参考文献 『海底鉱物資源—未利用レアメタルの探査と開発 (臼井朗)』

上記の定義にプラスして、「産地の政情不安などにより安定供給が困難である」も、金属資源としての価値に大きく影響します。

具体的な種類と用途はこちらのPDFが参考になります。

レアメタルの種類と用途
レアメタル乾式精錬 東京大学生産技術研究所・岡部 徹

現在、日本でレアメタルと定義されている金属の種類は次の通りです。

レアメタル一覧表 
世界の産業を支える鉱物資源について知ろう(資源エネルギー庁)

ユニークな稀少金属

イリジウム

たとえば、万年筆のペン先の「イリジウム合金」で有名な白金族イリジウムは、地球上で最も存在量が稀少な金属で知られています。

イリジウムは硬くて脆い青色の金属で、耐食性に優れた白金族元素のひとつです。地殻には平均で 0.000003 ppm (0.0000000003%)しか含まれていません。比重は22.6もあり、最も重い物質の一つです。そのため、大部分のイリジウムが地球深部に沈む込んで存在していると考えられています。
イリジウムは腐食に対する抵抗力が最も強い金属です。熱した王水にも、なかなか溶けません。しかし、加工性に乏しく、単独での使用は困難です。もっぱら、他の金属、特に白金族元素の強度を増すために、合金として利用されています。
iElement イリジウム

こちらの動画では、イリジウムの生成の過程と機能が紹介されています(字幕付き)

Iridium - The MOST RARE Metal on Earth!
(イリジウム ー 地球上で最もレアな金属)

リチウム

リチウム電池でお馴染みの『リチウム』も稀少金属の一つです。

地球上に広く分布する金属であり、海中にも存在しますが、「埋蔵場所がアンデス山脈沿いなど限定的」「反応性が高いため、単体で存在しない」など、商業化が難しい金属です。

ボリビアのウユニ塩原も、世界最大の埋蔵量で知られますが、政治的・技術的な問題から商業採掘に至っておらず、「量は多いけれど、生産が難しい」レアメタルの一つと言えます。

Lithium - The Lightest Metal on Earth
(リチウム - 地球上で最も軽い金属)

高価、稀少、ユニークなレアメタル

こうしたレアメタルは、特異な性質を持つことから、鉄や銅といったコモンメタルに微量に添加しすることで、強度や耐熱性を高めたり、発色を美しくしたり、高機能な合金を作り出すことができます。キロあたりの価格も非常に高く、レアメタルが「稀少」とされる所以です。

10 MOST EXPENSIVE METAL ON PLANET EARTH 2020 (Expensive!)
(地球上で最も高価な金属 ベスト10)

レアメタルと政治問題

高機能な製品を市場に送り出すことにより、経済を支えている先進国にとって、レアメタルの安定供給は国家戦略ともいうべき重要な課題です。

鉱業問題が手軽に分かる ゴルゴ13『コルタン狂想曲』 / タンタルと携帯電話にも書いているように、いくら技術があっても、それを実現する物質(マテリアル)がなければ、何の意味もないからです。

資源エネルギー庁の『xEVに必須のレアメタル「コバルト」の安定供給にオールジャパンで挑戦』では、電気自動車の製造に不可欠な『コバルト』を通して、金属資源と政治問題の関わりが分かりやすく解説されています。

レアメタルが持つ大きな課題のひとつとして、存在する国が偏っており、政情に不安のある国が多いことがあります。中でもコバルトは、アフリカのコンゴ民主共和国が世界生産の半分以上を占めていますが、2000年代に入っても不安定な情勢が続いてきました。2009年に停戦し、情勢は改善傾向にありますが、課題も残っています。
日本企業も、ある程度のリスクを覚悟して資源を確保する必要性に迫られています。xEV向けリチウムイオン電池に必須であるコバルトの安定供給を実現しなければ、この先、日本ではxEVがつくれなくなり、世界の電動化の流れに取り残されてしまう可能性もあります。
ただ、コンゴ民主共和国には政情不安とは別に、児童労働や紛争鉱物(紛争の資金源となってしまっている鉱物)といったリスクも存在しています。日本の民間企業が主導して鉱山投資を行うことは、相当に難しいものがあると言えます。

コバルトとコンゴ共和国の政治問題

おわりに

レアメタルは、単に「有るか、無いか」の問題ではなく、政治的にも非常に難しい課題を抱えた金属資源であることが分かります。

本作では、『ニムロディウム』という架空の金属資源を通して、人と産業、技術と可能性、海と社会の関わりなどを描いています。

本作を通じて、海洋科学や鉱業に興味をもって頂ければ幸いです。

海底鉱物資源に関する本

執筆にあたって参考にした、「海底鉱物資源」に関する書籍です。

海底鉱物資源—未利用レアメタルの探査と開発

日本の海底はレアメタルの宝庫!? いまだ手つかずの海底鉱床を調査航海のエキスパートがビジュアル豊かに公開! 第30回寺田寅彦記念賞受賞!
レアメタル・レアアースなどの希少金属は世界中で資源争奪が繰り広げられています。国土の狭い日本は陸上資源に乏しいものの、領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせた「海」の面積は世界6位と豊富。海底で見つかっている有望な金属鉱床をビジュアル豊かに紹介するとともに、商業開発へのシナリオを描く。

海底鉱物資源—未利用レアメタルの探査と開発
海底鉱物資源—未利用レアメタルの探査と開発

海底資源 -海洋国日本の大きな隠し財産

資源小国日本の明日を変える海底資源はどのようなものか?
日本は、エネルギー、金属、食料などの多くを輸入に頼っている資源小国です。しかし、資源小国日本には隠れた資源があります。日本の領海および排他的経済水域(EEZ)の海底には、豊富な鉱物資源や、メタンハイドレートなどのエネルギー資源の存在が確認されています。
この海底資源は、残念ながら今すぐ利用できるものではありません。今後、「資源量の確認」、「採掘技術の確立」、「環境評価」、「経済性評価」など多くのハードルをクリアして、はじめて利用できるようになるものです。しかし、現在の社会状況などを考えれば、海底資源開発は今後さらに重要になり、着目されていくでしょう。
この本では、日本の海底資源の実態、採掘のためにクリアしなくてはいけない課題、将来の展望などを総合的に紹介していきます。

海底資源 -海洋国日本の大きな隠し財産
海底資源 -海洋国日本の大きな隠し財産

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今成すか、永遠に行わないか ~Nunc aut numquam
本作に登場するラテン語の名句を紹介しています。

小説のテキスト版

宇宙文明の根幹を成すレアメタル『レアメタル』

UST歴(世界標準時間(ユニヴァーサル・スタンダードタイム))、200年8月25日。

宇宙船《フォルトゥナ号》は巡航高度に達すると銀色の両翼を大きく広げ、黄昏の空を大きく旋回した。

有翼の女神のように優美なフォルムと最新の恒星間航行システムを備えたフォルトゥナ号は、MIG(ミグ)(マクダエル・インダストリアル・グループ)の創業者一族であるマクダエル家が代々所有するプライベートジェットだ。その推進装置には、宇宙文明の根幹をなす『ニムロイド合金』がふんだんに使われ、MIGの卓越した技術を象徴する。

銀色の機体には、苛烈な宇宙開発競争を生き抜いてきたマクダエル家の家訓『Fortes(フォルテス) fortuna(フォルトゥナ) adjuvat(アドユヴァト)(運は勇敢な者たちを助ける)*1』と刻まれ、受難の戦士に福音を告げる。

だが、伸るか反るかは己次第。機会は与えても、勝利は約束せぬ。この世に幸運も不運もなく、運命はただ試すだけである。

そして今、フォルトゥナ号を所有するのは、MIGインダストリアル社の最高経営責任者にして、稀代の事業家と名高いアル・マクダエルだ。

この五月で六十歳の誕生日を迎えたアルは、人懐こそうな黒い瞳が印象的な紳士だ。顔は丸く、眉は八の字に垂れ下がり、鼻はちんまりとして、タヌキのようにとぼけた風貌は厳しい交渉の場でも変わることがない。祖父ノア・マクダエルが興した特殊鋼メーカー『MIGインダストリアル社』を三十五歳の若さで受け継ぎ、五歳年上の姉ダナ・マクダエルと共にグループを率いてきた。その指導力もさることながら、企画、戦略、管理、実践、あらゆる面で卓越し、ぼんくらとした世襲社長のイメージとは程遠い。就任以来、一度も赤字を経験したことがなく、社内外に幅広い人脈を持ち、ライバル企業でさえその手腕に一目置くほどだ。

二十年前には長年の研究開発の成果であるニムロイド新合金「NM(エヌエム)ーNu(ニユー)」を市場に送り出し、MIGインダストリアル社を世界で五指に入る特殊鋼メーカーに押し上げた。今やMIGの関連企業は六十社を超え、その市場は宇宙植民地の隅々まで広がっている。

だが、アルにとって世間の賞賛は無意味だ。

その目は常に惑星アステリアの海に注がれている。

水深3000メートルの深海底に堆積する海台クラスト。

そこに含まれる金属元素《ニムロディウム》こそ世界を変える。

NM(エヌエム)ーNu(ニユー)の成功も、経営者としての名声も、全てはこれを採掘する為の手段に過ぎない。絶対不可能と言われた海底鉱物資源の採鉱を成し遂げて、初めてアルの人生も報われる。「悪をもて悪に報いず、凡(すべ)ての人のまえに善からんことをはかり、汝らの為し得る限りつとめて凡(すべ)ての人と相和らげ。愛する者よ、自ら復讐すな。ただ神の怒りに任せまつれ。録(しる)して主いい給う、復讐するは我にあり、我これに報いん*2」の言葉通りに。

巨大鉱山とファルコン・マイニング社の支配

二世紀前。Anno(アンノ) Domini(ドミニ)(西暦)の末期。

みなみのうお座に向けて打ち上げられた無人惑星探査機パイシーズが、《ネンブロット》と呼ばれる赤茶けた惑星から一つの鉱石を持ち帰った。

程なく鶏卵ほどの赤い石から未知の金属元素《ニムロディウム》が検出され、これを鉄や銅などのコモンメタルに微量に添加すると、有害な宇宙線の遮蔽能力が格段に向上することが明らかになった。

それを皮切りに、ニムロディウムを用いた合金設計の技術も飛躍的に進歩し、それまで絶対不可能とされた恒星間航行の推進装置や高機能な宇宙構造物の建造が可能となった。

これを機に惑星ネンブロットの鉱物資源開発に乗り出したのが多国籍企業グループ『トリアド・ユニオン』だ。代表会議の場に幾つもの三色旗が並んだことから、当初は「トリコロール・ユニオン」と呼ばれていたが、出資者の増加に伴い、『トリアド・ユニオン』と名称を改めた。そのシンボルは、聖なる力とバランスを表す三叉矛(トライデント)である。

トリアド・ユニオンの他にも様々な資本がネンブロット進出を目論んだが、トリアド・ユニオンに決定的な優位をもたらしたのが《ニムロデ鉱山》の発見だ。

ニムロデ鉱山は、惑星ネンブロットの赤道直下に広がる260万平方キロメートルにも及ぶ巨大な単体火山だ。地下深くにはニムロディウムの含有率30パーセントを超えるニムロイド鉱石の大鉱床が広がり、その商業的価値は計り知れない。だが、採掘は困難を極め、あまたの業者がつるはしを折る中、アダマント*3のような岩盤を掘り抜いて、これをいち早く手中に収めたのが、トリアド・ユニオン傘下の鉱山会社《ファルコン・マイニング社》だ。

当時、宇宙開発には幾多の問題が横たわっていた。その最たるものが、旧時代に制定された宇宙開発法「宇宙の領土はいかなる国家にも属さない」という規約である。この曖昧さゆえに、宇宙開発の主導権は『国』ではなく、巨大な多国籍資本が掌握していた。かつて宇宙船の船体には国家の偉業を称えて国旗が描かれたものだが、新時代の宇宙船には出資した企業のロゴがずらりと並んでいる。

そんな中、中堅の鉱山会社に過ぎなかったファルコン・マイニング社が、いち早くニムロデ鉱山の鉱業権を手に入れたのも、宇宙鉱業法が整備される以前の『先願主義』の賜だ。ファルコン・マイニング社は、宇宙文明の根幹をなすニムロディウム市場を瞬く間に独占し、採掘から販売まで一手にし、「ファルコン・マイニング社の採掘機が止まれば宇宙船も飛ばない」と言われるまでになった。

更に系列会社であるファルコン・スチール社がニムロディウムの製錬法を確立し、優れた強度や耐久性を備えたニムロイド合金の大量生産が可能になると、宇宙航空、建設、恒星間通信など、宇宙文明を支える技術が飛躍的に向上し、宇宙植民時代が幕が開けた。

これを機にUST歴(世界標準時間(ユニヴァーサル・スタンダードタイム))が導入され、人類は宇宙に向かって爆発的に領土を広げたのである。

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