愛とは過ちも許すこと ~何度生まれ変わっても、同じ道を選ぶ

この投稿は、海洋科学、鉱業、建築・土木をテーマにしたフィクションです。詳しくは作品詳細をご参照下さい。


第一章 運命と意思 ~オランダ人船長 -漂流- (7)
STORY
商船学校に入学し、ようやく生き道を得たヴァルターは久々にカールスルーエの祖父を訪ねる。ドラッグ問題で書類送検された経緯を話すと、「だとしても、グンターはそれを許せる人間だ。それが愛というものだよ」と慰められる。

商船学校は楽しかった。

大好きな海と船の講義なら、砂に水が染み込むように頭に入る。動力エンジンや操舵パネル、通信機器など、機械いじりも刺激的だ。いつかアルベール一世やジャック=イヴ・クストーのように世界中の海を旅して回りたい。

母は週に一度、面会に訪れたが、ほとんど話すこともなく、半時間で別れた。時々、余計な小遣いを持たせようとしたが、それも突き返した。ジャン・ラクロワの息のかかったものは一銭たりと受け取りたくなかった。

学費は奨学金と父が遺してくれた貯蓄でまかなった。小遣いは倉庫の検品や梱包作業、公共施設の清掃など単発のアルバイトで稼ぐ。欲しい物といえばパソコンと自転車のアクセサリーぐらい。月に一度、レストランで濃厚なブイヤベースをお腹いっぱい食べられたら満足だった。

クリスマス休暇には、初めて一人でカールスルーエの祖父を訪ねた。

彼も十六歳になり、バスや飛行機を自分で乗り継ぐことができる。

祖父も孫の為に大人の顔ほどあるシュニッツェルを作り、高級菓子店から大好物のバームクーヘンとアーモンドシュトレンを取り寄せて、手厚くもてなしてくれた。

クリスマスにはハンブルクの叔父やミュンヘンの親族もやって来て、久しぶりに家族の団らんを楽しんだ。自分にとって本当に家族と言えるのは父方だけだ。彼の頑固で激しい気性もそれなりに理解してくれて、余計で肉親の温もりが身にしみる。

あっという間に休暇も過ぎ、マルセイユに帰る前日の夕方、祖父と二人でライン川の河川敷を散歩した。黄金色に輝く空の下、悠々と流れるライン川を見ていると、その先にあるフェールダムを思い出す。

水に沈んだ田畑や運河沿いの家はどうなっただろう。

父が命懸けで守ろうとした締切堤防は?

川縁のベンチで涙を拭うと、祖父は皺だらけの大きな手で彼の頭を撫で、

「泣きたい時は思い切り泣けばいい。父親を亡くした悲しみなど、一、二年で癒えるものではない。まして突然の別れだった。子供に耐えられるものではない」

と慰めてくれた。

祖父の肩にもたれ、ひとしきり泣いた後、「お祖父さん、俺はとても悪い子なんだよ」と胸にたまったものを打ち明けた。

どうしても母と上手くやれないこと。

上級生に誘われて薬物を口にしたこと。

今も心の奥底で父の行動が納得できず、恨みがましい気持ちを抱き続けていること。その為にずっと罪悪感に苛まれていること……。

祖父は黙って彼の話に耳を傾けていたが、

「だとしても、グンターはそれを許せる人間だ。それが愛というものだよ」

と静かな口調で答えた。

「グンターはわたしの自慢の息子だった。幼い時から真っ直ぐで、思慮深く、時に優柔ではあったが、卑怯者だったことは一度もない。きっと、あの晩もぎりぎりまで迷っただろう。君やお母さんと一緒に逃げたいと願ったはずだ。だが、最後には堤防を守りに戻った。なぜか? それがグンター・フォーゲルという人間だからだよ。理屈ではなく、そういう魂に生まれついた。きっと何度生まれ変わっても、同じ道を選ぶだろう。だから君も父親を信じなさい。それだけが君を正しい方向へ導く」

帰路に就く頃には気持ちも和らぎ、お土産のバームクーヘンを紙袋いっぱいに抱えて空港行きのバスに乗り込んだ。「何かあったら、いつでも訪ねてきなさい」という祖父の言葉に励まされ、彼にも一つだけ帰る場所があることを実感する。

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