ファルコン・マイニング社の野心 ~鉱山開発と資源調査権

この投稿は、海洋科学、鉱業、建築・土木をテーマにしたフィクションです。詳しくは作品詳細をご参照下さい。


STORY
ファルコン・マイニング社が北方のウェストフィリア近海に、広大な海洋資源調査権を申請したニュースが駆け巡る。予想以上に早い動きに、採鉱プラットフォームにも動揺が走る。ヴァルターは改めてトリヴィアとネンブロットの鉱業の仕組み、ニムロディウム採掘にまつわる社会問題、ファルコン・マイニング社の実態を調べる。ファルコンの陰に怯えるリズに、ヴァルターは「海底鉱物資源の採掘など、簡単に真似できるものではない」と言い聞かせる。そして、彼女とMIGのため、防波堤を作ってやることを約束する。

インディラと話した後、昼食に行くと、食堂では作業員らが壁掛けTVから流れるニュースに釘付けになっている。

ディスプレイには北の高緯度に位置するウェストフィリア島の地図と、周辺の海底および島全土に賦存する金属資源や天然ガスの分布図が映し出され、先週、ファルコン・マイニング社がアステリアのウェストフィリア島全土、約35000平方キロメートル、および周辺の海域400キロメートル四方に渡って海洋資源調査権を申請したことが報じられている。認可が下りれば、来年春より金属資源探査を目的とした調査が開始され、ステラマリスから専任の技術者や研究員も雇い入れるという。

活動拠点は、現在、ローランド島のペネロペ湾沿岸に建設中の高層オフィスビル『スカイタワー』。

ファルコン・マイニング社は既に六百億エルクの活動資金を保有し、80億エルクを資源探査、鉱量把握試錐、陸上選鉱設備や付属港湾設備の建設に当てるという。

ウェストフィリア海域の金属資源のポテンシャルは膨大で、特に海底の硫化物鉱床については、一日平均9000トン、1トンあたり95エルクの請負採鉱を計画しており、産業界から注目が集まっているとのことだ。

ニュースが終わると、食堂がにわかに騒がしくなり、

「意外と早かったな」

「一日平均九千トンって、ここの倍じゃないか」

「あんな極地に採鉱基地など建設できるのか」

誰もが不安の色を浮かべた。

彼はたまたま近くに居たダグとガーフィールドの隣に座ると、

「ファルコン・マイニング社って、そんなに大きな会社なのか?」

と尋ねた。

「鉱山会社としての規模は世界第四位だが、ニムロディウムに関しては採鉱から販売まで市場の九割を独占してる。やってることは阿漕(あこぎ)だが、ニムロディウムが無いことには宇宙船も飛ばないからな」

「なぜファルコン・マイニング社だけがここまで肥大化したんだ?」

「第一に、ニムロデ鉱山というバカでかい鉱床を手に入れた。しかも彼らのバックにはクレディ・ジェネラルというメガバンクがついて、ありとあらゆる業界にコネクションがある。第二に、採掘した原鉱を粉砕して分級洗浄し、高品位の精鉱を回収するノウハウに長けている。たとえ違法採掘でニムロイド鉱石をトラックいっぱいにせしめても、鉱石からニムロディウムを豊富に含む精鉱を分離する技術がなければ使い物にならないということだ。他にもニムロイド鉱石を採掘している会社は幾つかあるが、ファルコン・マイニング社に比べたら、鉱床の規模も選鉱技術も遠く及ばない」

「だが、なぜウェストフィリアに? 陸地の大半が氷原みたいな高緯度の島で、港も、道路も、何も無い所だろう。そんな島で採鉱しようと思ったら、インフラを整えるだけでも莫大な経費が必要じゃないか」

「オレが思うに、ウェストフィリアは口実だね」

ダグがコーヒーをすすりながら言った。

「海洋資源調査権なんてのは、あくまで通行手形に過ぎない。たとえ魚一匹しか見つからなくても、結果はさほど重要じゃないんだよ。それより進出の足がかりとしての意味合いの方が大きい」

「どういう意味?」

「アステリアは経済特区だから、企業活動には細かな規約がある。『税制の優遇や公的扶助を得られる代わりに、事務所や倉庫は区内に設立しなければならない』「最初の一年間で収益の数パーセントから数十パーセントを投資しなければならない』『技術系従業員の四十パーセントをトリヴィア領内から雇用しなければならない』等々。投資や減税目的にペーパーカンパニーを作ったり、用地を買い占めたりするのを防ぐためだ。そこでアステリアに進出するための手っ取り早い方法の一つに『海洋資源調査権』がある。調査するだけだから、特区法で定められた投資も、企業監査も、従業員の雇用も必要ない。期限の半年間、申告した条件で調査を行い、所定のデータをアステリア開発局に提出するだけだ。調査に必要な施設や設備は比較的自由に持ち込めるから、とりあえず権利を取得して、その間に足場を固めればいい。ファルコン・マイニング社も調査の拠点としてローランド島にオフィスを開設し、ウェストフィリアの資源調査に取り組む傍ら、その他の事業拡張の準備を進める手はずなんだろう」

「だが、そんなことをすれば、誰でも調査権を掲げて進出できるじゃないか」

「民間企業がアステリアで海洋資源調査権を取得し、調査を継続するには、開発局に『調査費』を上納しないといけない。一キロ平方メートルにつき月額三百エルクだが、調査範囲が千キロ、二千キロにも及べば、上納金だけで月数百万になる。それを半年、一年と払い続けることを考えれば、資金のない中小企業には到底無理だ」

「なるほど」

「トリヴィア政府も馬鹿じゃない。本当に実力のある企業だけがアステリアで産業活動できるようにフィルタリングしてる。政府にしてみれば、たとえ海洋調査だけでもファルコン・マイニング社が進出してくれるのは有り難いだろう。調査船を一隻走らせるだけで税収になる」

「ファルコン・マイニング社がウェストフィリア海域で得た海洋調査データはどうなるんだ?」

「一部はアステリア開発局に提出されるが、大半は彼らの企業資産になる。もし、彼らがウェストフィリアに排他的な探鉱権を取得したら、もう他の会社は調査にすら入れない。でも、それはファルコン・マイニング社に限ったことじゃない。どこの企業が探鉱権を取得しても同じことだ。鉱業権だけ取得して実際には企業活動を行わない『空の権利者』を阻止する為にそういう制度になった」

「だが、それだと資本や組織力のある大企業だけがアステリアに進出して、小さな会社にはまるでチャンスがない。それも一種の寡占じゃないか」

「そんなことオレに愚痴られても知らんさ」

ダグはコーヒーを飲み干すと、ぶっきらぼうにコーヒーカップを置いた。

「女の前でいい格好したい気持ちは分かるが、お前なんかが逆立ちしたってこの流れは止められん。誰かが黄金の指輪を手にすれば、他の奴らも欲しがるのが世の常だ。我も我もと押しかけて、金の亡者が地面を掘り返した後には草木一本残らない。接続ミッションの成功の喜びにひたれるのも、せいぜいあと数ヶ月、海台クラストが市場に出れば、新たな競争の始まりだ。海底資源に興味を示している企業はファルコン・マイニング社だけじゃない。このプラットフォームがパンドラの箱を開けた。そこから先は『神のみぞ知る』だ。お前の出る幕はねえ」

そう言うとダグは立ち上がり、ガーフィールドもガハハと笑いながら後に続いた。

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