海洋小説 MORGENROOD -曙光 One Heart, One Ocean

破砕機・集鉱機・揚鉱管・水中ポンプ

海底鉱物資源の採鉱システムについて

海底鉱物資源の採鉱プラットフォームでも紹介しているように、海洋小説『MORGENROOD -曙光』に登場する洋上プラットフォームと採鉱システムは、実際にパプアニューギニア沖で海底鉱物資源(海底熱水鉱床)の試験採掘を行なっていたNautilus Minerals社のプランをモデルにしています。

残念ながら、商業採掘には至らず、研究開発もストップしましたが、それらはレガシーとして今に伝えられ、後発の良き資料となっています。

Nautilus Minerals社は2019年に事業整理し、現在は、Deep Sea Mine Finance(DSMF)社が企業資産を受け継いでいます)

ソロモン海域における海底鉱物資源の調査、賦存状況、システムの概要、プロジェクトチームの構成など、詳しいデータが見たい方は、下記リンクからどうぞ。
275ページからなる膨大なPDF資料なので、閲覧の際はお気をつけ下さい。
操業時、投資家や株主向けに公開されていたオフィシャルの資料です。
当時は誰でも閲覧&ダウンロード可能でした。
学術目的でじっくり閲覧したい方はご連絡ください。

Nautilus Minerals社の海底鉱物資源 採鉱システム Offshore Production System Definition and Cost Study

本作においては、第2章 採鉱プラットフォーム 「ミッション開始」の章で登場します。読みやすい縦書きPDFはこちら

「破砕」「集鉱」「揚鉱」

プロジェクトチームのサブリーダー、マードックの説明にもあるように、採鉱システムの要は要は「破砕」「集鉱」「揚鉱」です。

海底鉱物資源は、次の三つの工程を経て、洋上の支援施設に揚収されます。

  • 破砕
    基礎岩から金属資源の含まれる部分を掘削して剥ぎ取り、揚鉱しやすいように、細かく砕く。(ドリル)
  • 揚鉱(Gathering)
    破砕した鉱物を効率よく回収する
  • 揚鉱(Liser & Lift)
    集鉱機が回収した鉱物を洋上に揚収する。(水中ポンプで揚鉱管の物質を循環させる)

洋上の支援施設(Nautilus Minerals社の採鉱システムではSupport Vessel支援船、小説では半潜水式のプラットフォーム)に揚収された鉱物は、コンテナ船で工業港に輸送され、陸路で処理工場に運び込まれます。

Nautilus Minerals社の採鉱システムでは、下図のように、『掘削機』『破砕機』『集鉱機』の三つの重機から構成されますが、本作では混乱を避けるため、破砕機と集鉱機の二種類にアレンジしています。

Nautilus Minerals社 採鉱システム

揚収の経路は下図のようなイメージです。

採鉱システムのモデル 集鉱の流れ

海底で掘削を行なう三種類の重機は次の様なイメージです。
洋上の支援船からケーブルで降下して、有索でオペレーションを行ないます。

こちらはNautilus Minerals社で実際に製作された実機です。作業員の姿を見比べてもその大きさが分かります。
CGイメージだけでなく、ここまでやってたんですね。

破砕機 Auxiliary MinerとBulk Miner

本作に登場する『ビートル型破砕機』のモデルは下図の通り。
Nautilus Minerals社の採鉱システムでは、『Auxiliary Miner』と呼ばれています。
PDF資料によると、「全長13.5m 高さ5.2m  横幅7m」です。

Auxiliary Miner 破砕機
Auxiliary Miner 破砕機のモデル

破砕機 Bulk Minerのモデルです。
小説には登場しませんが、Nautilus Minerals社の採鉱システムでは、破砕機が基礎眼から掘削した被覆岩(鉱物を含む)をさらに細かく砕く役割があります。

Bulk Miner 破砕機のモデル
採鉱システム 破砕機 Bulk Miner
採鉱システム 破砕機 Bulk Miner

集鉱機 Gathering Machine

本作に登場する『ドーザー型集鉱機』のモデルは下図の通り。

Nautilus Minerals社の採鉱システムでは、『Gathering Machine』、もしくは『Collcting Machine』と呼ばれています。

PDF資料では、「全長8.5m、 横幅7.7m、 高さ6.4m」と設定されています。

Gathering Machine ドーザー型集鉱機
ドーザー型集鉱機
採鉱システム 集鉱機 Gathering Machine

映像だけ見れば、陸上の鉱業に引けを取らないほどのシステムだと思います。
ここまで完成して、なぜ操業に至らなかったのか。
環境面からの反対も非常に根強かったのでしょう。
これほどの規模のものが三台も操業すれば、海底熱水鉱床やその他の生物圏も確実に破壊されますから。また水深数百メートルから数千メートルの海底下で生じる環境破壊が地上にどのような影響をもたらすのか、誰にも分かりません。事例もないし。
本作でも、潜水艇パイロットのヴァルターが、海底鉱物資源の採掘に挑むアル・マクダエルに食ってかかる場面がありますが、「アステリアは微生物しかいない」というあたりでスルーしてます
詳しくは、生命の始まりは微生物 今日の利益か、数億年後の生命かで解説しています。

集鉱機 Gathering Machine

水中ポンプと揚鉱管(ライザーパイプ)

重機によって掘削された海底鉱物資源は、集鉱機で集められ、水中ポンプと揚鉱管によって、洋上の支援施設に揚収されます。

PDF資料の164Pから詳しく記載されています。

  • Riser Transfer Pipe
  • Subsea Lift Pump
  • Main Vertical Riser

ちなみに、Riser Transfer Pipeというのは、集鉱機から水中ポンプに至る、フレキシブルホースで、資料によると、150~200メートルの長さがあります。掃除機みたいなものですね。
Main Vertical Riserが、いわゆるライザーパイプで、石油リグなどにも使われている、鋼製の太いパイプです。

悪天候の場合はどうなるのか・・という話ですが、石油リグでも、深海掘削船でも、ただちに海底面の噴出防止装置からライザーパイプを切り離し、時には、洋上に揚収します。海底面の設備と繋がったままだと、潮力や波力の影響でライザーパイプが大きなダメージを受けるどころか、洋上の支援施設も危険に晒されるからです。
揚収しない場合は、ライザーパイプがぶら下がったまま、高波に揉まれることになり、それはそれで、非常に危険ですが、詳しくは、深海とはムーンプールに広がるもう一つの宇宙をご参照ください。

採鉱システム 水中ポンプ

水中ポンプ(Subsea Lift Pump)

水中ポンプのイメージは下図の通り。
リアクターと球体チャンバーが揚鉱管(ライザーパイプ)に環流を作り出し、海底の鉱物を洋上の支援施設に揚収します。本作では、接続ミッションの最後の行程で、有人潜水艇から小型無人機をランチャーし、リアクターの電源を入れる作業が登場します。
詳しくは、 採鉱システムの接続ミッション ~水中ポンプと高電圧リアクターについてをご参照ください。

採鉱システム 水中ポンプ
採鉱システム 水中ポンプ

揚鉱管(Riser Transfer Pipe)

揚収の要となるライザーパイプです。本作では、一般読者を意識して、「揚鉱管」で統一しています。
商業採掘においては、海底で採取した鉱物を、いかに効率よく、安全に洋上に回収するかが重要なポイントです。
すでに石油リグで多くの実績があるので、泥漿化(スラリー)した鉱物を洋上の支援施設に揚収するのも、それほど困難ではないそうですが、それでも重機と連携して稼働させるのは難度が高いと思います。
(海底で破砕した鉱物は石コロのまま引き揚げるのではなく、細かく砕いて、環流水と混ぜ合わせ、泥水の状態で揚収します)

上記でも紹介したように、水中ポンプから集鉱機に至る部分は掃除機のようなフレキシブルホースになっており、途中で脱落したり、回収物が詰まったりしないよう、様々な工夫がなされています。

ライザーパイプについては、『パイプラックの語らい』でも詳しく紹介しています。

採鉱システム 揚鉱管 Main Riser Pipe

ライザーパイプに関する記述は、JAMSTECの『ライザー掘削システム』を参考にしています。

https://www.jamstec.go.jp/cdex/j/operations/drilling/drilling.html

日本の海底鉱物資源プロジェクト

日本では、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構[JOGMEC]が海底鉱物資源の採掘に向けて、地道に研究開発を続けています。

海洋資源調査船『白嶺(はくれい)』をはじめ、遠隔操作型無人潜水機や掘削装置を投入して、試験採鉱も行なっています。

下記リンクに詳しい解説がありますので、興味のある方はご一読ください。

JOGMEC 海洋鉱物資源の概要 / JOGMECの取り組み

マンガン団塊の採鉱システムについて

Nautilus Minerals社やJOGMECの取り組みでは、「海底熱水鉱床」(地殻活動の活溌な熱水噴出孔の周囲に堆積する鉱物資源)が対象ですが、それよりもっと深い所に存在する「マンガン団塊Wikiで見る)」の採鉱システムも、昭和の時代からいろいろ考案されています。

形状的には、ジャガイモみたいなマンガン団塊の方が回収しやすいイメージがありますが、多くは数千メートルの大深度に存在する為、数百メートル以浅に存在する熱水鉱床の方が採掘しやすいのでしょう。

成分だけ見れば、まさにマンガンの宝庫で、産業のみならず、人体にも必須のミネラルなので、採掘できれば、ずいぶん助けになるんだろうとは思います。

こちらはマンガン団塊の研究開発を進めるBlue NodulesによるPRビデオ。
掃除機みたいに深海底の表面に転がっている団塊を吸い取るだけなので、熱水鉱床の重機システムに比べて、ずいぶんシンプルな印象ですが、数千メートルを揚収するとなれば、ライザーシステムが容易ではないでしょう。

マンガン団塊については、「ミッションの成功、おめでとう ~マンガン団塊の採鉱システムについて」でも紹介しています。

【コラム】海底鉱物資源と日本の将来

レアメタルと海底鉱物資源 ~テクノロジーと社会問題でも紹介していますが、「産業のエッセンス」としてのレアメタルは、今後、ますます重要性が高まるにもかかわらず、政治問題が複雑に絡んで、安定供給には程遠いのが現実です。

そんな中、四方を海に囲まれた火山国の日本が海底鉱物資源に目を向け、研究開発に注力するのは、非常に頼もしく感じると同時に、鉱業の難しさと技術的不利について、つくづく考えずにいません。

第一に、日本にチリやオーストラリアのような巨大な鉱山はなく、北海やメキシコ湾の石油リグのような設備もなく、技術面ではもちろん、部品の調達やマネジメントにおいても、ハードルが高いと感じるからです。

海洋調査においては世界的レベルですが、海底鉱物資源の採鉱のノウハウは、海洋調査とは異なり、商業的に結果を出さなければ話になりません。たとえ完璧なモデルは作れても、実際に操業して、利益が上がらなければ、鉱業としての役に立たないからです。

第二に、人材確保の難しさもあります。日常的に大規模な採鉱が行なわれ、洋上プラットフォームのオペレーションにも長けた人物が其処此処に存在する国と異なり、日本は従事したこともなければ、興味もないという人が圧倒多数でしょう。資源産出国のように、当たり前のように鉱業大学や鉱業大臣が存在し、鉱業専門の企業も数多く存在する環境に比べれば、最低限のノウハウを身に付けるだけでも大変でしょう。

その分、資源調査や外交(民間レベルにおいても)は頑張っていますが、いざ操業となれば、技術的、人材的、様々な問題が立ち塞がり、予想以上の困難が待ち受けているような予感がします。

そうした思いもあって、海洋小説『MORGENROOD -曙光』を執筆したわけですが、20年以上も前から「やる、やる」と言いつつ、諸外国でさえ実現できないところを見ると、これは日本に限った話ではなく、鉱業大国であっても同じではないかと感じます。政治的、環境的にも、非常に微妙なことですし。

それでも日本近海で採掘に成功すれば、世界の構図が変わるのは確かで、それこそ未来の救世主になるかもしれません。

海底鉱物資源について考えることは、日本の未来に期待を寄せることでもあり、22世紀頃には「日本でも採れちゃいました♥」みたいな書き込みがSNSで見られたらな……と願っています。

海洋小説 MORGENROOD -曙光 One Heart, One Ocean

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