恋する瞳 人はなぜ眼差しに惹かれるのか ~アンドレの「濡れてきらめく黒曜石の瞳」

コラム エッセー
記事について

視神経は大脳に直結するため、心に思ったことがダイレクトに現れます。ベルばらではオスカルが「濡れてきらめく黒曜石の瞳」とアンドレへの恋心を語ります。小説『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラの「星のようにふちどるまつ毛」をモチーフに、目の魅力について語るコラムです。

この投稿は、優月まりの名義で『ベルばらKidsぷらざ』(cocolog.nifty.com)に連載していた原稿をベースに作成しています。
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恋する瞳 人はなぜ眼差しに惹かれるのか

ベルサイユのばら 第7巻 ~美しき愛のちかい』より、オスカルとアンドレの愛の誓いに関するコラムです。

古今東西の名作の中で、『目』について語った言葉で一番好きなのが、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』の冒頭、ヒロイン・スカーレットの描写です。

目は、茶のすこしもまじらない淡碧(うすあお)で、こわくて黒いまつ毛が、星のようにそのまわりをふちどり、それが目じりへきて心もちそりかえっている

私は子供の頃からスカーレットの大ファンで、マスカラを塗るようになってからは、『星のようにふちどるまつ毛』を目指して頑張っていましたが、ブラシ使いが思うようにいかず、しょっちゅうダマを作っては、せっせと綿棒で拭き取っていたもの。出社早々、「あんた、マスカラが目の周りに付いてるで」と言われ、独身時代は恥のみ多き化粧ライフでした。

私の二人の子供は、スラブ系のハーフですが、どちらもバリバリの日本人顔で、お尻に蒙古斑を付けて生まれてきた、純正モンゴリアンですが、二人を連れて歩いていると、道行く人にしょっちゅう「なんて可愛い Czarny Ocy (黒い瞳)なの!」と言われたものです。

日本人が、ハリウッド俳優のような青い瞳に憧れるように、ポーランドの人々にとっては、黒い瞳がとても魅力的に見えるようです。

ポーランドにも黒っぽい瞳の方はおられますが、アジア系の瞳の黒さは格別なようで、あるポーランド人いわく、「宇宙を感じる」と。

有名なロシア民謡『黒い瞳(オーチ・チョールヌィエ)』でも、「惑わしの黒き色(注)」と、人生を狂わせるほどの恋心を黒い瞳にたとえて歌っていますが、ブルー系やグリーン系の透き通るような瞳が大多数を占める中で、黒く輝く瞳は吸い込まれるような魅力を感じるのかもしれません。

「ベルばら」では、アンドレへの愛に目覚めたオスカルが、彼と口づけを交わした後、「黒曜石の、ぬれてきらめく、ただひとつの瞳」と彼の眼差しを表現しています。

普段は凛としたオスカルが情感たっぷりに思いの丈を語る場面なので、この廊下のキスシーンが好きだという人も少なくないでしょう。

それにしても、人はなぜ恋をすると見つめ合い、その眼差しに惹かれるのでしょう。

それには、ちょっとした科学的根拠があります。

手足や内臓、耳や舌の神経など、主要な神経の大半が、首の後ろにある延髄を通して情報を大脳に伝えるのに対し、視神経だけは大脳に直結し、目から得た情報をダイレクトに脳に伝えます。

昔から「目は口ほどに物を言い」「目は心の窓」と言いますが、文字通り、人間の目は「表に現れた脳」、すなわち『心』そのものなんですね。

「ベルばら」でも、スウェーデン軽竜騎兵の制服を着てベルサイユ宮に伺候したフェルゼンを、マリーが惚れ惚れと見つめると、周りの貴婦人たちが、「ごらんあそばせ、王妃さまのあのまなざし。夫のある身でありながら、まあはしたない。あんなにうっとりと見とれたりなさって……」と噂し、マリー自身も、「いまはことばをかわすことはおろか、見つめあうことすらゆるされない……。このからだじゅうが、ぜんぶ目となって、あなたの姿だけをおっているのに……!」と、恋の苦悩を語っています。

このように目は隠しきれない心の窓であり、そこに映るものをコントロールする術はありません。

求めれば見つめ、想えば瞳に溢れ出る。

人がメイクアップに力を入れるのも、そこに魅力の真髄があることを本能的に知っているからでしょう。

アンドレと結ばれる前、オスカルは言います。

よかった。すぐそばにいて、わたしをささえてくれるやさしいまなざしに、気づくのがおそすぎなくて……

オスカルにとっては、彼の眼差しこそ、何にもまさる愛の真実だったのかもしれません。

恋する瞳 人はなぜ眼差しに惹かれるのか ~アンドレの「濡れてきらめく黒曜石の瞳」

引用文献
風と共に去りぬ」マーガレット・ミッチェル著
大久保康雄・竹内道之助 河出書房新社刊

(注1)堀内敬三氏の邦訳より

スカーレット・オハラの『星のように、ふちどるまつ毛』
Vivien Leigh Scarlet

こちらも参考にどうぞ

もう二度と飢えに泣かない ~スカーレットの心の強さ~ 映画『風と共に去りぬ』より
「明日に望みを託して」「もう二度と飢えに泣きません」など、強く生きるスカーレットの名台詞をテーマにしたコラム。

コミックの案内

第7巻『美しき愛のちかい』は、フランス革命への序章となる三部会の顛末、国民に沿うオスカルの心情、愛の告白など、最高に盛り上がるパートです。
なお、現在、刊行されているKindle版の表紙は、第9巻『いたましき王妃の最後』の絵柄で、集英社マーガレットコミックのオリジナルは下図の通りです。

ベルサイユのばら(7) Kindle版
ベルサイユのばら(7) Kindle版

こちらがオリジナルの表紙。従来の扉絵とはがらりと変わって、アダルトな愛を感じます。

ベルサイユのばら 7 (マーガレットコミックス)
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恋する瞳 人はなぜ眼差しに惹かれるのか ~アンドレの「濡れてきらめく黒曜石の瞳」

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最初から日の当たる場所で歩き始める人はいない。 皆に理解されながら物事を始める人も。 始める時は、いつも一人。 考えるのも、一人。 行うのも、一人。 だからこそ達成の悦びもひとしおなのです。

この記事を書いた人

MOKOのアバター MOKO 著者

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。アニメから古典文学まで幅広く親しむ雑色系。科学と文芸が融合した新感覚のSF小説を手がけています。看護師として医療機関に勤務後、東欧に移住。石田朋子。
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