オンライン漫画と貧困と子供の娯楽について ~もはやネットは無料では十分に楽しめない世界

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近年、漫画も紙本ではなく、スマホのアプリやオンラインストアで読むものになった。

土曜の午後になると、比較的、親ルールの緩い友人宅に集まって、互いに持ち寄ったコミック本を日が暮れるまで読み耽ったのも遠い昔。

今では友人宅に集まるのはもちろん、ツーといえばカーのような趣味嗜好の合う仲間を見つけるのも難しいだろう。

漫画・音楽・映画(動画)といったコンテンツはもちろん、それを配信するプラットフォームも多様化し、個々の好みも、自由時間の過ごし方も分断されて、「皆で何かを楽しむ」という機会も失われつつあるからだ。

しかも、ネット上の多くのコンテンツは無料とはいえ、ディズニー映画や大手出版社のベストセラーともなれば結構な値段がするし、個々のデバイスに配信される為、「皆で気軽に回し読み」とはいかない。

たとえば、クラスに一人、ドカベンや銀河鉄道999の全巻を所有する子がいれば、数ヶ月かけて均等に巡回し、誰もが無料で読むことができた。

友人宅にお邪魔することもあれば、持ち主が何冊かを通学鞄に忍ばせて持ち込み、放課後、体育館の倉庫や校庭裏などで回し読みすることもあり、そこまで「所有」や「課金」に拘らなかったものだ。

揉めるとすれば、誰かが一冊紛失したとか、表紙を破ったとか、ページに食べ物のカスが挟まっていたとか、マナーに関することが主因。

漫画本の扱いが雑な子は、仲間間でブラックリストとして共有されるので、次第にお声もかからなくなり、よほどでない限り、持ち主が損害を被ることもなかった。

今にして思えば、子供なりのルールでシェアリングエコノミーが充実し、仲間間の信頼がある限り、そこまで課金に楽しみを左右されることもなかったような気がする。

「水島新司ならA君」「高階良子、わたなべまさこ系スリラーならBちゃん」「竹宮恵子のアレが読みたいならC子に相談せよ」みたいな情報も充実していたから。

その点、現代は、漫画も個々のデバイスに配信されるので、仲間内で回し読みするのが難しい。

クラスに一人、週刊チャンピオンを購入する子がいれば、クラス全員がその恩恵に預かれたアナログ時代とは違う。

たとえ相手が仲のいい友だちでも、まさか自分のスマホを貸し出すわけにもいかず、せいぜい隣に腰掛けて、スマホの画面をのぞき込むのが精一杯だろう。

そう考えると、コンテンツは有り余るほど出回っているのに、意外と気軽に閲覧できないデジタル時代は、便利なようで不便ではないか。

毎月数百円を継続的に課金できる経済的余裕があればいいが、子供の小遣いなら、そういう訳にもいかないだろう。

「ほんの数百円」といえども、Amazon Prime、NetFlix、Spotify,Google Drive、YouTube、等々。複数のサービスを契約すれば、結構な額になるし、アカウントを解除すればそれまでだ。コンテンツの種類によっては、手元に何も残らないこともある。

しかも契約には個人情報、とりわけクレジットカードや携帯電話番号などが必須で、「小学生でも気軽に利用」とはいかない。

親がスマホ課金も履歴も接続時間も管理している状況では、ワンコインを握りしめ、隣町の本屋でこっそり『がきデカ』や『バイオレンスジャック』を購入するような、危ない買い物も不可能だろう。

便利、格安といえばその通りだが、子供にとっては、あまり快適とはいえない状況だ。

むしろ、欲しいものは目の前にあるのに、お金がない、自由がない、デバイスがない、ないないづくしでストレスの方が多いのではないか。

今や日本も「貧困」という言葉がすっかり定着し、誰もそれに驚かなくなっているが、月額500円や月額980円のネットサービスを継続利用し、いつでも好きな漫画をお腹いっぱい読める子はどれくらいいるのだろう。

昨今は、大人の方が漫画にはまっているという話だが、単に嗜好の問題ではなく、子供がいろんな漫画を気軽に回し読みできる環境にないことが大きな原因になってないだろうか。

これからネットはますます便利になり、面白いコンテンツもどんどんリリースされるだろう。

だが、無料前提のネットも、月額課金できる人とできない人の差は歴然としており、課金できなければ、ネットの恩恵も半減する。

それでも無料で見たいというなら、デバイスや閲覧歴を通じて、個人情報を売り渡す他なく、安全・安心というなら、紙の漫画本をクラス全員で回し読みできたアナログ時代の方がよほど自由でリーズナブルだったのではないだろうか。

今後ますますネットコンテンツが充実し、金銭的余裕のある層は恩恵を享受する一方で、課金できない、デバイスすら手に入らない層は経済的苦痛を噛みしめながら、「見たくても、見られない」鬱屈した思いを抱えながら生きていくのかと思うと、自由と無料を標榜するネットこそ真の金食い虫であり、格差の根源という気がしてならないのである。

小学館はまんがアプリ「マンガワン」(iOS、Android)で8月29日に1日だけ掲載している全ての作品を無料公開するキャンペーン「マンガワン祭り2021」を実施する。286作品が対象になる。

マンガワン祭りは、海賊版サイト「漫画村」の閉鎖が話題になった2019年に始めた。利用者に作品との出会いを提供し、同時に「全てが無料の機会に、なぜ普段は無料でないのかについてもちょっとだけ考えてもらえるとうれしい」としている。

小学館のまんがアプリ、29日に24時間限定の無料公開 「なぜ普段は無料でないのかも考えて」

理屈は分かる。

だが、もはやネットは無料では十分に楽しめない世界なんだ。

ITmedia NEWS
小学館のまんがアプリ、29日に24時間限定の無料公開 「なぜ普段は無料でないのかも考えて」 小学館のまんがアプリ「マンガワン」が1日限りの無料公開を行う。286作品が対象。29日の午前0時から午後11時59分まで。
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