上質な大人のラブロマンス ジェイソン・ステイサムの『ハミングバード』

about
ジェイソン・ステイサムが照れ屋の中学生みたいにポーランド系のシスターと可憐な恋を演じる異色のハードアクション。筋肉マッチョのヒーローながら、初めてのキスは純愛全開。心に残る美しいラブストーリーです。原題の『償い』に関するコラムと併せて。

この記事は最後までネタバレします。未見の方はご注意下さい。

ハミングバード(字幕版)
ハミングバード(字幕版)
ロンドンの暗黒街で、絶望のどん底を這う男。彼の名はジョゼフ・スミス。かつては特殊部隊を率いる軍曹だったが、そこで犯した罪から逃れるため、家族や社会からも距離をおき、息をひそめて暮らしていた。ある日、唯一心を通わせた少女が拉致されたことで、彼の人生が大きく動き出す。彼女を救うために他人になりすまし、裏社会でのし上がっていくジョゼフ。しかし、少女の残酷な運命を知ったとき、彼の怒りは決壊、復讐の炎と化す。過去に犯した罪、そして自らの人生にも決着をつけるため、ジョゼフが最後に下した決断とは──?

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目次

上質な大人のラブロマンス&アクション 『ハミングバード』

あらすじ

アフガニスタンで五人の仲間を殺害された特殊部隊員のジョゼフ(=ジェイソン・ステイサム)は、その報復として、現地の民間人を独断で殺害し、軍法会議にかけられる。
逃亡したジョゼフは、ロンドンでホームレスに紛れて暮らしていたが、ある晩、ギャングに追われ、偶然、高級アパートメントに転がり込む。
オーナーが半年ほどニューヨークに滞在することを知ったジョゼフは、『男の恋人のルームメート』を装い、中華料理店で働き始める。
ある晩、素手でチンピラを撃退したことから、中国人系オーナーに腕前を見込まれ、汚れ仕事を引き受けるようになる。

一方、街角でホームレスに炊き出しをするポーランド系修道女、シスター・クリスティーナと心を交わし、汚れ仕事で儲けた金で大量のピザを届けるなど、彼女のボランティア活動を影ながら支えるようになる。

そんな中、知り合いの女性がサディスティックな男に買われて、無残に殺害されたことを知ったジョゼフは、ギャングのネットワークを利用して、男の身元を割り出す。

罪の償いとして、復讐を遂げようとするジョゼフと、心に深い傷をもつクリスティーナの恋は、幸せに実るのか……。

ハードアクションにラブロマンスを掛け合わせた、新感覚のサスペンスドラマです。

官能的な情事と中学生みたいなキス・シーン

アメリカ映画も、イギリス映画も、主音声が『英語』であるせいか、よほどの通でなければ、その違いは分かりにくいと思います。

『ハミングバード』も、何も知らずに見ていたら、多くの人は「ハリウッド映画」と思うし、展開もよくあるギャングものです。

しかし、イギリス映画は、ハリウッドと少し異なり、『対象(テーマ)』から少し距離を置くところがあります。

ラブシーンも、ハリウッドはお約束のように主人公とヒロインが激しく絡むけど、イギリス映画は「そういう情事がありました」と小物や背景で語ることが多い。

たとえば、私が一番好きなのは、互いの気持ちを確かめ合ったジョゼフとクリスティーナが一夜を共にする場面。

ヒロインの役柄が「シスター」ということもあり、直接的な絡みは一切なく、二人が身に付けていた小物が点々とテーブルに並ぶ演出です。

それでも、二人の距離が徐々に縮まり、一枚ずつ服を脱いで……という展開が目に浮かぶよう。

池上遼一の劇画にも、こういう演出がありますが、ストレートに絡みを描くより、よほどエロティックなんですね。

一つずつ身に付けているものを外していく

情事を思わせる演出

ドアの隙間

二人が初めて口付けを交わす場面も、中学生のファーストキスみたいで、どきどき♥

お堅い修道女のクリスティーナに赤いドレスをプレゼントし、写真家のパーティーに招待するジョゼフ。

軽く酔ったクリスティーナと、「もう恋などしない」という風なジェイソンが、互いにためらい、恥じらいながらも、ついついチューしてしまう。
(「ショーウィンドウの前でキス」は恋愛映画の定番です)

ジェイソン・ステイサムとシスターのデート

あの腕っ節の強いジェイソン・ステイサムが、この映画では清純なシスターを前におどおどして、初めてキスする中学生みたい。

ショーウィンドウの前で初めてのキス

そうかと思えば、ストリートギャングを相手に美しい立ち回り。

トム・クルーズやダニエル・クレイグが「オレって、カッコよくね?」と計算された動きであるのに対し、ジェイソンのアクションは日本の殺陣のようにスマートで、そつがない。若山富三郎や柳生十兵衛の剣術を見ているような感じです。

もう一つのポイントは、ポーランド系の女優、アガタ・ブゼクの愛らしさ。
アガタの話す英語は、もちろんポーランド訛り。
実際、英国には、ポーランド移民が多いです。

そのくせ、けっこう大胆で、必ずしも完璧な『天使』でないところがチャームポイント。

クリスティーナにとっても、ジョゼフにとっても、人生に二度とない至福の時で、まさに現代版『ひと夏の恋』です。

原題 『リデンプション(償い)』の意味するもの

原題は『Redemption』(償い)。

罪なき民間人を殺したジョゼフと、性的ハラスメントから逃れるために体操教師を殺めてしまったクリスティーナの、それぞれの償いを描いています。

罪を背負った人間に共通するのは、「罪をおかした人間は、決して幸せになってはならない」という思い込みです。

本人がそれを自分に課しているケースもあれば、世間が幸せになることを許さない場合もある。

遺族や被害者の気持ちを考えると、黒か白かで単純に割り切れる問題ではありません。

では、罪をおかした人間は、真っ当に暮らすことも、人を愛し愛されることも許されないのでしょうか。

私は決してそうは思いません。

そこに贖罪を気持ちがある限り、どんな罪人も、人間らしく生き直す権利があると思います。

とりわけ、キリスト教圏においては、「改悛」に重きを置きます。

一度も罪をおかしたことのない人間より、罪を悔いた人間の方がいっそう尊いという考え方です。

しかし、一度でも罪をおかせば、もう以前の、真っ白な自分には戻れないというのが、良識ある人間の感覚でしょう。

傍が許しても、自分で自分が許せない。

自分みたいな人間は、幸せになってはならないのだ――という自責の念から、たとえ幸せになるチャンスが訪れても、わざと背を向け、再び破滅に走ってしまう人も少なくないと思います。

本作でも、クリスティーナはジョゼフと結ばれ、一人の女性として幸せになることも可能でした。

ジョゼフも、裏社会と関わりがあったにせよ、始末を付けた後は、一人の社会人として更生する機会があったはずです。

にもかかわらず、別れの道を選んだのは、やはり自分で自分を許すことができなかったからでしょう。

罪をおかした者は、一生、笑うことも、休むことも控えて、世のため、人のために、奉仕しなければならない。

彼らはこれからも自らに重い十字架を課して、贖罪の道を歩んでいくのかもしれません。

だが、そんな決意の中にも、淋しさや甘えといった、隙間のような部分があり、本作はその隙間を上手に描いています。

わざと背を向けることもなければ、近づきすぎることもない、まるで初恋のように切ない距離感が、この作品の醍醐味かもしれません。

この後、アフリカに赴任したクリスティーナには大変な苦労が待ち受けているし、ジョゼフも今度は英国軍だけでなく、ギャングにも追われ、どこにも安住の地などないでしょう。

それでも、人間らしく働き、愛し合ったひと夏の思い出に支えられ、再び悪事に手を染める事はないはずです。

もしかしたら、本物の救いは、『神』や『天国』ではなく、すぐ側にいる人の真心であり、触れ合いなのかもしれません。

【映画コラム】 移民とギャング

移民の犯罪組織といえば、『映画『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』~中国の台頭と移民コミュニティ』でもリアルに描かれていますし、オーソドックスなところでは、やはり『ゴッドファーザー』が有名でしょう。

関連記事 → 映画と原作から読み解く『ゴッドファーザー』人生を支える第二の父親

本作にも、中国系移民の犯罪組織が登場します。

組織としては、イタリア移民のコルレオーネ・ファミリーとは少し質が異なるでしょうが、元々、同胞を守る集団だったのが、次第に暴力や裏金と結びつき、一帯を支配する一大勢力に成長した流れは同じだと思います。

どこの世界も、外国人が生きていくのは大変です。

文化も言語も異なる者が現地で旗揚げしても、地元民より成功することはまずありません。

人種や宗教、民族によっては、人並みに暮らすのも困難だったりします。

中国系幹部が口にする「ここで成功して、白人を雇うのがオレたちのステータス」という言葉が全てを物語っています。

もちろん、映画は多分に演出もあるけれど、本作に登場する「ボス」も凄い。

どこからこんな強面のオバチャン役者を連れてくるのか、海外の映画界は、ホント、奥が深いです。(ちなみにこの女優さんは仏英系のいろんな作品で見かけます)

どうやって、ここまでのし上がったのか、スピンオフで描いて欲しいですよね。『ハミングバード外伝』とか。

ロンドンの中華系マフィア

人身売買(密入国)の現実もリアルに描いています。

密入国者のチェック

まさか買うとは思わなかった、ジェイソン・ステイサムのブルーレイ。
どこがそんなにいいの? と問われたら、「いつものジェイソンと、ちょっと違うから」
疲れた時に、しんみり鑑賞したい、大人のラブロマンス&アクションです。

ハミングバードのブルーレイ

ジェイソン・ステイサムのおすすめ映画

テンポのいい、ほっこり系クライム・サスペンス『PARKER/パーカー』

ジェイソン・ステイサムに興味があるけど、何から見ていいか分からない……という方におすすめしたいのが『パーカー』。
共演のジェニファー・ロペスも、「人生にも仕事にも疲れた、ハイミス不動産屋OL」を好演し、ジェイソンの恋人と絶妙な三角関係を描きます。
事件の始まりから終結まで、テンポよく脚本も進み、エンディングもクスっと笑える完成度の高さ。
従来のクライム・サスペンスにはない、ほっこり系の作りで、同系統の作品に飽きてしまった方にもおすすめ。

うらぶれたハイミスOLのレスリー(ジェニファー・ロペス)が、「自分は一生、縁のない高級不動産を、金満オヤジにいやらしい目つきで見られながら、必死でセールスする日々は、もうたくさん!」と嘆く場面に超共感。
ジェニファーは踊れるだけでなく、庶民感覚に添った演技もできるのだなと、ますます好きになりました。

PARKER/パーカー (字幕版
PARKER/パーカー (字幕版)
犯行の為だけに集められた4人と組み、大金が集まるステート・フェアを襲撃したパーカー(J・ステイサム)。
見事強奪に成功するも、4人組はパーカーに瀕死の重傷を負わせ分け前を奪って逃走。
なんとか一命を取り留め報復計画を企てたパーカーは、4人組の追跡中に出会ったレスリー(J・ロペス)を巻き込み、壮絶な復讐劇を開始する。
しかし、その背後には、彼の命を狙う最凶の刺客が息を潜めていた――。

ブルーレイ / DVDはこちらです。Amazonで733円から

安心して楽しめる『トランスポーター』

「序盤サイコー、終盤金と時間を返せ」みたいな作品が少なくない中、『トランスポーター』は安心して楽しめるアクション映画です。
ハミング・バードのようにシリアスなドラマではなく、どちらかといえば、コミック系。
悪役のチャイニーズ系も、リュック・ベッソン監督の作品でお馴染みの俳優さんで、『キッス・オブ・ザ・ドラゴン』のファンなら一気に親しみが増すのではないでしょうか。
アクションも申し分なく、中だるみ無しのノンストップ展開。
視聴して損のない作品です。

トランスポーター1 スペシャル・プライス [Blu-ray]
トランスポーター1 スペシャル・プライス [Blu-ray]
フランクはワケありの依頼品を高額の報酬と引換えに目的地まで運ぶ、プロの運び屋=トランスポーター。
彼には自らに課した3つのルールがあった。
1)契約厳守、2)名前は聞かない、3)依頼品を開けない。そのルールを1つでも破れば、<死>。
ところが、あるデリバリーの途中、彼は依頼品を開けてしまう。そこで彼が目にしたのは、ひとりの美しい女だった。
彼を取り巻く状況は一気に悪化し、一触即発の事態へと転じていく…。

Amazonプライムビデオはこちら

子役に微妙にイラつく国際犯罪系アクション『SAFE /セイフ』

設定は非常にスリリングで、興味深い内容なのですが、子役が微妙にアレで、いまいち「ヒロイン」として感情移入できないんですね(^_^;
どうせなら『ダ・ヴィンチ・コード』のソフィー(オドレイ・トトゥ)みたいに、生い立ちの複雑な二十代前半の可憐な美女にすればよかったんじゃないかと、つくづく。
まあ、ジェイソンが相手だと、エロ抜きに語れないから、学童になってしまったのかもしれないが。

何人かが辛口評価されているように、もう少しひねりがあればよかったのではないかと思います。
それでもジェイソン・ステイサムは格好いいし、土日の暇つぶしには丁度いいのではないでしょうか。

SAFE/セイフ (字幕版)
SAFE/セイフ (字幕版)
ニューヨーク。元市警の特命刑事だったルーク・ライトは、今はマイナーな総合格闘技のファイターにまで落ちぶれていた。八百長試合で誤って相手をKOしてしまった彼は、その試合で大損害を被ったロシアン・マフィアに妻を惨殺されてしまう。すべてを失い、飛び込み自殺をしようした時、少女が、妻を殺したロシア人の一団に追われているのを目撃する。彼は少女を救うが、今度は汚職警官グループやチャイニーズ・マフィアまでもが、少女を追ってくる。その中国人少女メイは、一度覚えた数字を絶対に忘れない天才で、チャイニーズ・マフィアがある暗証番号を覚させていた。ルークは、メイの安全を守るため、悪の組織を叩き潰すべく行動を開始する…。

円盤は買うほどでもないです。

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