勝者が後進に道を譲る時 ヒーローの世代交代を描く『カーズ/クロスロード』~ピクサー映画

勝者が後進に道を譲る時 ヒーローの世代交代を描く『カーズ/クロスロード』~ピクサー映画
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『カーズ / クロスロード』 あらすじと見どころ

カーズ/クロスロード(2017年) - Cars 3

監督 : ブライアン・フィー
吹替え版 : 土田大(ライトニング・マックイーン)、松岡茉優(クルーズ・ラミレス)、 藤森慎吾(ジャクソン・ストーム)

カーズ/クロスロード (字幕版)
カーズ/クロスロード (字幕版)

あらすじ

ベテランレーサーの『ライトニング・マックイーン』は、長い間、トップを走り続けてきたが、2016年度のレースで、最新テクノロジーを駆使した新人ジャクソン・ストームに追い抜かれてしまう。
焦ったマックイーンは、ついにクラッシュを引き起こし、キャリアの出発点となった思い出の町、ラジエーター・スプリングスに赴き、自分を見つめ直す。
女性トレーナー、クルーズ・ラミレスと共に、次のレースに向けて特訓するうち、マックイーンは後進の育成という、新たな道を見出す。

見どころ

レースの場面はいっそう臨場感が増し、アニメ映画としては文句なしの出来映えだが、第一作の感動を知る者には、かなり違和感を覚えるのではないだろうか。
第一作が、生意気かつ野心的なルーキーが、人間味(?)あふれる、一流のレーサーに成長するサクセスストーリーだっただけに、主人公のマックイーンが人生のピークを過ぎ、後進に道を譲るという話は、新田次郎のサラリーマン小説のようにジジ臭く、夢や希望を感じさせる作品ではないからだ。

しかしながら、子供に対する一つの教訓として、「誰もが永遠にトップを走り続けられるわけではない」=人間とはいつか老いて、第一線を退く時が来る――と示唆するのは、決して悪い話ではない。身近な高齢者がそうであるように、いつか自分も通る道だからだ。

図抜けたヒーローより、等身大キャラクターが好まれる21世紀においては、こういう物語も存在価値があるだろう。

もっとも、小学生ぐらいで、老境が理解できるのも、それはそれで問題という気もするが。

勝者が後進に道を譲る時 ヒーローの世代交代

マックイーンのミドルエイジ・クライシス

稲妻のようにレース界に現れ、一世を風靡したライトニング・マックイーンも中年期にさしかかり、弾丸のような走りにも衰えが見え始める。

そんなマックイーンの不安とは対称的に、レース界には次々にハイブリッドな若手が現れ、記録を塗り替えていく。

わけても注目株が新人のジャクソン・ストームだ。
高機能シミュレーションを駆使したインドア式トレーニングで、次々にレースを制覇する。

時代に追いつけなくなった車は次々に解雇。レースの顔ぶれも変わっていく。

次は、自分の番。

このままではジャクソン・ストームに破れるどころか、レーシングカーとしての地位や名声も失いかねない。
焦ったマックイーンは、新たなスキルを求めて、トレーニングセンターに赴くが、これぞまさしくミドルエイジ・クライシス。
最新式のトレーニング方法に馴染めず、いよいよ限界を感じる。

完全に行き詰まったマックイーンは、トレーナーのクルーズ・ラミレスと共に、彼の師であるドック・ハドソンの古巣を訪れる。
マックイーンの記憶の中で、悲劇的なクラッシュ事故から引退を余儀なくされたドック・ハドソンは『不幸なチャンピオン』だった。
笑った顔も見たことがない……と回想するマックイーンに、ドック・ハドソンの元クルーチーフだったスモーカーは、ドックが晩年、マックイーンの指導に生き甲斐を感じていたことを語り、レーシングカーとして勝ち続けるだけが人生ではないことを示唆する。

ドック・ハドソンは世間から冷遇され、表舞台から消えざるをえなかったが、マックイーンは自分の意志で引き際を決めることができる。
それを前向きに捉え、最後のレースに挑む。

去る者と進む者 ~敬意と想像力で支え合う

『カーズ』がリリースされたのは、2006年。

あれから11年が経過し、中年になったマックイーンの宿命は、当時の制作スタッフの宿命でもある。

職場には、自分より優れた知識や技術をもつ若手がどんどんやって来て、地位も仕事も脅かす。

会社は最大限に利益を上げる為、自分より優れた若手を重宝し、はたと気づけば、何所にも自分の居場所はない。

会社に異議を唱えても、『時代の流れ』と言われたらそれまでで、誰にも抗うことはできない。

だが、人間は部品ではない。

去る者、進む者、お互いに敬意と想像力は必要だ。

互いに侮蔑や怒りをぶつけ合ったところで、後味の悪い思いをするだけだし、後進にとっても、何の助けにもならないだろう。

それよりも、人にはどうしても避けられない宿命があることを互いに理解し、支え合う方がいい。

去る者は勝利や栄光に執着するのではなく、また、進む者は老いた者を嘲笑うのではなく、共にこの社会で生きて、幸せを分かち合う。

それこそが、真の社会の財産だ。

これからの世の中は、きっと、いっそう厳しい。

技術は大変なスピードで進化し、世代間の知識や価値観の隔たりは、年々、拡がるばかりだ。

そんな現代において、XーMENシリーズ・ウルヴァリンの最新作『ローガン』(参考 21世紀の正義と教育 ~本物のヒーローとは 映画『LOGAN/ローガン』が教えてくれること)をはじめ、社会と人間の現実を描いた作品が続々と登場するのは非常に興味深いし、厳しい現実に正面からたちむかし、新時代の処方箋を生み出そうとする作り手の意志も快い。

今日、映画館で『カーズ/クロスロード』を見た少年も、いつか本作のメッセージを理解するだろう。

これが人生だと。

その時には、マックイーンをはじめ、レーシングカー仲間の優しさや潔さを思い出し、心の糧として欲しい。

そして、それこそが、老いて制作現場を去って行く熟年スタッフの最大の願いではないだろうか。

映画『カーズ』 あらすじと見どころ

カーズ(2006年) - Cars

監督 : ジョン・ラセター
吹替え版 : 土田大(ライトニング・マックイーン)、戸田恵子(サリー)、山口智充(メーター)、浦山迅(ドック・ハドソン)

カーズ (吹替版)
カーズ (吹替版)

あらすじ

新人レーサーのライトニング・マックイーンは、卓越した才能の持主だが、独りよがりで、チームクルーも全員解雇するような、イヤな奴。
大手石油会社ダイナコとスポンサー契約を結ぶ為、チャンピオンカップの開催地であるロサンゼルスを目指すが、ルート66の途中で暴走車に絡まれ、ラジエータースプリングスという小さな町に迷い込む。
スピード違反と器物損壊の罪に問われたマックイーンは、町の判事であるドック・ハドソンから道路の修理を命じられ、渋々、作業に取りかかるが、不誠実な態度で町のみんなを傷つけてしまう。
しかし、心優しい弁護士のサリーや、陽気なメーターと交流するうちに、次第に考えを変え、ラジエーター・スプリングスに以前の活気を取り戻す。
名レーサーでもあるドック・ハドソンのサポートもあり、チャンピオンカップで快走するが、ゴール寸前でマックイーンが取った行動は意外なものだった……。

見どころ

文句なしの名作。
一見、ちゃちなお子様アニメに見えるが、一台一台が非常に個性的で、手足のない車たちが普通に町で生活するのが、だんだん自然に見えるほど。
脇役で、ライバルでもある、チック・ヒックスの「はい、皆さん、一緒にカチーカ・カチーカ」も笑えるし、実在の名レーサー、ミハエル・シューマッハやマリオ・アンドレッティが本人役でカメオ出演しているのも見逃せない。
吹替え版の声の演技も秀逸で、レース解説のボブ・カトラス役は本職の司会者でもある赤坂泰彦氏が務め、本物のF1レースのような臨場感。
脚本、演出ともに、ピクサーアニメの中でも最上位に位置づけられる作品だ。

「昔は、走ること自体を楽しんでいた。でも、今は、いかに目的地に早く着くかが重要になってしまった」
「チャンピオンカップなんて、ただの置物だ」

といった台詞は、急ぎすぎる現代人のハートにぐっとくるのではないだろうか。

なお、本作は

『カーズ2』 あらすじと見どころ

カーズ2(2011年) -Cars 2

監督 : ジョン・ラセター

あらすじ

世界のトップレーサーとなったライトニング・マックイーンは世界中のサーキット場を回っていたが、空気の読めないメーターに振り回され、とうとう仲違いしてしまう。

一方、バイオ燃料『アリノール』を売り出し中のマイルズ・アクセルロッド卿は、自分が見つけた巨大な油田をドル箱にする為、わざと『アリノール』の評判を落とし、再び石油を主流にする計画を画策していた。

そうとも知らずに、アクセルロッド卿の主催するレースに参加することになったマックイーン一行は、思わぬハプニングに巻き込まれる……。

見どころ

本作のテーマは、人気者になったマックイーンと、田舎者メーターの友情物語になっている。
マックイーンはかつての友情を忘れ、メーターは友人の大成功を心から喜べないという、よくある筋書きだ。
『カーズ』の続編というよりは、スピンオフ的な作品で、正直、あまり面白さは感じないが、舞台となる東京のユニークな描写は一見に値する。

時間があればどうぞ、的な一品。

2019年11月12日

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