名刺の肩書きは『旅行中』 小説『ティファニーで朝食を』 ~本当に自由な生き方とは

オードリー・ヘプバーン ティファニーで朝食を
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記事について

彼女の名刺には生き様そのものともいえる肩書きが一つ、『旅行中』。何ものにも属さず、誰のものにもならず、自由奔放に生きる女ホリー・ゴライトリー。”ティファニーで朝食を”とは、自我と自由を愛するホリーの心意気と、留まる所の無い不安と淋しさを表した、象徴的な言葉です。
カポーティの小説より名言を紹介しています。

目次 🏃

オードリーの映画とカポーティの小説は別モノ

作品の概要

マンハッタンのアパートに暮らす『わたし』(映画では恋人役のポール・バージャク)は、自由奔放に暮らすホリー・ゴライトリーと親しくなる。

ホリーは金持ちの男性と遊び歩き、玉の輿に乗ることを夢見ている。(高級娼婦というよりは、セレブ狙いの女性)

そんなホリーに翻弄されながらも、『わたし』はどんどん彼女に惹かれていく……。

*

オードリー・ヘプバーン主演の映画『ティファニーで朝食を』と、トルーマン・カポーティの小説は別物と考えた方がいいです。

映画ティファニーはあくまで「オードリーの映画」であり、カポーティが描いた「ホリー・ゴライトリー」とは大きく違っているからです。

オードリーもホリー役を好演しましたが、「結局のところ、あたしって、あしたは何処に住むかわかんないでしょ。だから“旅行中”ってつけてもらったの」と言い放つ原作のイメージとは異なります。

奔放なプレイガールを演じるには、オードリーはあまりに上品過ぎたのではないでしょうか。

「映画を見たカポーティが不満をもらした」と言い伝えられるのも頷ける話です。

原作のホリー・ファンとしては、もう一度、新しい役者で、原作に忠実なホリー・ゴライトリーの物語を撮り直して欲しいですが、オードリーのティファニーが映画史上に残る名作として燦然と輝いている異常、リメイクは難しいでしょう。

ここでは、カポーティの原作『ティファニーで朝食を』の名台詞を紹介しています。

村上春樹より、龍口直太郎・訳がおすすめ

新潮社文庫から刊行されている邦訳は、村上春樹・訳と、龍口直太郎・訳 の二種類ありますが、カポーティーの世界を愉しむなら、龍口版がおすすめです。

村上訳も悪くはないですが、はすっぱなイメージで、文体が好きになれないんですね。

ホリーは奔放ながらも、どこか知的で、自立した女性だからです(村上さんの文体は、甘えん坊の女子大生に見える)

残念ながら、龍口版は現在廃刊となっており、入手困難な状況です。

しかし、高雅な文体が素敵なので、興味のある方は図書館や古本屋にリクエストしてみて下さい。

当サイトで紹介しているのは龍口版の翻訳です。

「きっとあたしのこと厚かましい女だとお思いでしょ? それとも頭がどうかしてるとか、なんとかね」
「いいや、そんなことちっとも」
「いいえ、そうよ。だれだってそう思うんだもん。でもあたし、気にしないわ。それが役にたつんだもんね」
これが1958年に一人の作家が思いついた会話。でもちっとも古びていない。
今日もどこかでそんな風に言いながら笑っている女の子がいるはずだ。
私もそう思う。笑われたって、いいや。軽んじられたって、そのほうがうまくいくときもある。 (amazonレビューより)

ティファニーで朝食を (新潮文庫)  龍口 直太郎
ティファニーで朝食を (新潮文庫)  龍口 直太郎

【原作で読み解く】 ホリー・ゴライトリーの魅力

名優オードリー・ヘプバーンが演じた、映画「ティファニーで朝食を」のホリー・ゴライトリーは、小粋で、ロマンチックな女性でしたが、カポーティの描いた小説のヒロインは、野生的なまでに自由奔放な女。    
    
カポーティが本当に描きたかったのは、ホリーと無名作家の恋物語ではなく、たくさんの取り巻きに囲まれて、その日その日を生きる自由な女の“旅”です。    
    
「ティファニーで朝食を」――    
    
それは自我と自由を愛するホリーの心意気と、留まる所のない不安と淋しさを一言で表した、象徴的な言葉です。

名刺の肩書きは『旅行中』

私がその家に移ってから一週間ばかりたったある日のこと、二号室に属する郵便箱の名札さしに奇妙な名刺がさしこんであった。    
しゃれた字体で印刷してある文字を読むと、「ミス・ホリデイ・ゴライトリー」とあり、その下の隅っこに、「旅行中(Traveling)」と記してあった。

何ものにも属さず、誰のものにもならず、自由奔放に生きる女ホリー・ゴライトリー。    

ニューヨークの小さなアパートに引っ越してきた無名作家の「私」は、いつも数名の取り巻きに囲まれ、その日その日を気ままに生きる彼女に、次第に心ひかれていきます。    
    
そんな彼女の名刺には、彼女の生き様そのものともいえる肩書きが一つ。    
    
旅行中」――    
    
たとえ地の果てまで行き着こうと、自分の心に忠実に生きようとする彼女の心意気が表れています。    

自立とは、「自分のことは自分で始末をつけること」

「あたしは長い間、自分のことは自分で始末つけてきたんだからね」

彼女が単なる“奔放な女”でないことは、この一言で分かります。

本当の自由とは、精神的自立と責任を伴うもの。

常識人の目には、ホリーは無責任で我が侭な女に映るかも知れませんが、彼女は自由に生きるにふさわしい自覚と責任感を備えた、自立した女なのです。

眠りたくもないし、死にたくもない。ただ旅して行きたいだけ

彼女は一匹の猫を飼い、ギターを弾いていた。陽の良く照る日には髪の毛を洗い、赤毛のトラ猫と一緒に非常階段の上にすわり、毛を乾かしながらギターを爪びきしていた。    

『眠りたくもないし、    
死にたくもない、    
ただ旅して行きたいだけ、    
大空の牧場通って』    
    
Don't wanna sleep,    
don't wanna die,    
Just wanna go a-traveling'    
through the pastures of the sky

映画では、有名な『ムーンリヴァー』が歌われます。
(無名作家の“私”と目を見交わしながら歌うオードリーが素敵でした)    

でも、原作の方がホリーらしいと思いませんか?

行く当てもなければ、帰る場所もないけれど、心赴くままに旅を続けたい、彼女の心情にぴったりです。

以下は、映画で歌われる『ムーンリヴァー』の歌詞です。

Moon River, wider than a mile    
I'm crossin' you in style some day    
Old dream maker, you heart breaker    
Wherever you're goin', I'm goin' your way.    
    
Two driffters, off to see the world    
There's such a lot of world to see    
We're after the same rainbow's end    
Waitin' 'round the bend    
My Huckleberry friend    
Moon river and me.    

一マイルより広いムーン・リヴァーよ    
私はいつの日か、しゃれた姿であなたを渡ろう    
古き夢の主、心悩ます者よ    
あなたが何処に行こうと、私はついて行こう    
    
世界を見るため旅立つ二人の漂流者    
見る世界はあんなにもたくさんある    
私たちは角を曲がったところに待っている    
同じ虹の果てを求めている    
私のハックルベリーのような友    
ムーン・リヴァーと私よ    

作詞 : ジョニー・マーサー    
作曲 : ヘンリー・マンシーニ

『ティファニーで朝食を』食べられるようになっても自分を失いたくない

「映画スターになることと、大きな自我を持つことは並行するみたいに思われてるけど、事実は、自我などすっかり捨ててしまわないことには、スターになどなれっこないの。
むしろ、そうなることがあたしの大きな目的で、いつかは回り道をしてでも、そこまで達するようにつとめるつもり。
ただ、たとえそうなっても、あたしの自我だけはあくまで捨てたくないのよ。
ある晴れた朝、目を覚まし、ティファニーで朝食を食べるようになっても、あたし自身というものは失いたくないのね」

「ティファニーで朝食をとる」――

それはあらゆる不安から解き放たれ、穏やかな気持ちで朝食を取ることができる、安らかな日々の訪れを意味します。

ホリーは、自由奔放を好む一方で、どこかに安住の地を見つけたいと願っています。

だからこそ、「僕」に心惹かれたこともありました。

それでも、最後には『自由』を選ばずにいないのが、彼女の本質であり、哀しさなのかもしれません。

誰かに属し、その人の胸の中に安住するということは、相手に拘束されることでもあるからです。

安住は自由の最大の敵であり、自我を閉じこめる鳥かごに他ならないことを、彼女は誰よりも理解していたに違いありません。

名付けることは、所有すること

「このおバカちゃんは(飼い猫)まだ名前をもらってないのよ。
名前が無いのって、ちょっと不便だわね。         

でもあたしには、この子に名前をつける権利なんかないの。
誰かもらってくれる人が現れるまで待たなきゃなんないわ。    
    
あたしたちは、ある日、偶然、河のほとりでめぐりあって仲が良くなっただけ。
お互いにどっちのものでもないのね。この子も独立しているし、あたしもそうなの。    
    
一体あたしって女は、あたしと他のものがちゃんと一緒にいられるような場所をはっきり見つけるまでは、どんなものにしろ、所有したいなんて思わないのよ。

ところが、まだ今のところでは、そういう場所がどこにあるかはっきりしないの。

でもね、それがどのような所か、あたしにはよくわかってるわ。
それはティファニーの店みたいな所。

といっても、宝石なんかどうでもいいのよ」

名前を付けるという事は、自分のものとして『所有する』ということ。    

そして『所有』とは、自由を愛する彼女にとって最大の罪なのです。

結婚なんて誰とでもできるはず

結婚なんて誰とでもできるはずよ、相手が男だって女だって――
ねえ、もしあんたがあたしのところへやってきて、軍艦と結婚したい、といったら、あたしあんたを見直すわ。
そうよ、あたし本気でいってるのよ。
恋愛なんて、それでいいんじゃないかしら。

それでいいんです。

野生の動物はいつか飛んでいく

野生の動物はいくら可愛がってやってもだめね。
可愛がってやればやるほど、だんだん丈夫になり、そのあげく、どうにかひとり歩きができるようになると、森の中へ逃げ込むとか、樹の枝へ飛んでいってしまうとかするのよ。    
そしてだんだん高い樹に移り、しまいには空へ消えていってしまうのね。
それでおしまいさ。    
ね、ベルさん、
あんたも野生の動物を可愛がったりすると、けっきょく空を見上げてため息をつくようなことになるわ。

ホリー・ゴライトリーが男を追っかけてブラジルに去った後も、彼女の面影を胸に抱いてニューヨークに暮らす独り者のジョー・ベル。    

野鳥のような彼女に惚れた彼も運が悪かったとしか言い様がない……。

田舎に住むくらいなら

「さようなら、ほんとにあたしのいい人!――    
でも、あんながらんとした、とりとめもない、雷が鳴っても何もかも消し飛んでしまうような田舎に住むくらいなら、空でも眺めているほうがまだましだわ」

田舎から迎えにやって来た昔の亭主に贈る言葉。    

一生、『旅行中』

結局のところ、あたしって、あしたは何処に住むかわかんないでしょ。    
だから“旅行中”ってつけてもらったの

今でこそ、女性の自立が当たり前のように言われ、自由に生きることも半ばファッションと化していますが、自立を叫ぶ一方で、自分を養ってくれる安住の地を求めているうちは、「自立」も「自由」も、まだまだ程遠いです。

何故なら、本当の自立や自由は、「自分のことは自分で始末をつける」を前提としているからです。

誰かの所に落ち着けば、そこから所有が始まり、束縛が生まれます。

それすら断ち切る強さがなければ、到底、自由など手に入りません。
  
小説のホリー・ゴライトリーは、結局、無名作家の『私』とも結ばれる事なく、何処かに在るだろう「ティファニーの店のような処」を求めて、アフリカくんだりまで飛んでいきました。

彼女が本当に「ティファニーの店のような処」に巡り合えたとしても、彼女が死ぬまで『旅行中』の身である事にかわりはないと思います。
    
なぜなら、ホリー・ゴライトリーとは、安住を求めながらも、何ものにも属せず、誰のものにもなれない女だからです。

初稿 : '98 autumn (1998年11月10日)

映画『ティファニーで朝食を』

舞台はNY。宝石店ティファニーに憧れ、ショーウインドーの前でパンをかじるのが大好きなコールガールは、人なつこくてかわいい女性。
同じアパートに越してきた青年作家は、そんな彼女に次第にひかれていくが、彼女には秘密があった…。

コールガールを演じても下品にならない、オードリー・ヘプバーンのエレガントな魅力に釘付け。

ジョージ・ペパードも、いかにも人のよさそうな好青年ぶりで、ヒロインに振り回される役がピッタリです。

監督は「ピンクパンサー」シリーズでおなじみのブレイク・エドワーズ。

エドワーズ監督の軽妙なタッチと、オードリーの都会の妖精のような、ふんわりとした軽やかさがマッチした、心地よいラブストーリーです。

ティファニーで朝食を (字幕版)
ティファニーで朝食を (字幕版)

オードリーのドレス姿はエレガントで、町並みも印象的ですが、やっぱり原作のホリー・ゴライトリーとは大違いなんですよね・・。

もし、今リメイクするとしたら、、、思いつきません。

ティファニーの清廉かつ高級なイメージと、ホリーの奔放な魅力&自立精神を兼ね備えた女優さん。

難しすぎる・・

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